北海道における防災教育の取り組み-気象台と小学校教員、研究者の連携から-
CIDIR Report
定池祐季
2014年9月1日
北海道各地には、防災教育の担い手として各地で活躍する気象台の「名物職員」が存在する。手作りの実験道具を活用し、名人芸のように自然現象を解き明かす職員、話芸で子ども達を惹きつける職員など、多くのタレントが見受けられる。
地域の防災教育活動に熱心に参画してきた札幌管区気象台では、平成24年8月より「学校防災教育に係る気象台との懇談会」(以下、懇談会)を設置し、定期的な会合と教員向け研修会などを実施してきた。
この懇談会の目的は、小学校において継続的でより実効性の高い防災教育が推進されるように、これまでの防災教育を様々な角度から検証し、検討や実践を進めていくことである。構成員は、札幌管区気象台の職員に加え、札幌市内の小学校教員、防災教育に関わる研究者である。このメンバーで平成25年まで2ヶ月に1度程度会合をもち、年に数回、教員研修や授業実践を実施した。本レポートでは、この懇談会の活動について報告する。
毎回の会合の中では、防災教育に関する情報交換、教員の授業実践に関する意見交換を中心に行った。その中で、東日本大震災を機に、学校防災教育の重要性についての認識が高まったが、未だ学校教育の中で体系的に防災教育に取り組む素地が整っていないことから、防災の視点を北海道の学校教育の中に取り入れる働きかけを行うことにした。その一つが、教員研修である。札幌市で使用されている教科書では、小学校5年生の社会科情報に関する単元の中で、緊急地震速報について扱うことができる。そこで、札幌管区区気象台と、同気象台の支援を受けて授業実践を行った教員が中心となり、かねてから夏休み・冬休みの期間に教員研修を実施してきた。懇談会では、これまでの研修会を発展させる形で大きく2部構成の研修を実施することとした。まずは、実践者である教員自身が教科の中で防災を取り上げる方法を伝えるもの。次に、教科や日常の学校教育の中で防災の視点を加えていくための、教員自身の気づきを念頭に置いたワークショップという形式である。
前半の部では、緊急地震速報の仕組みを気象台職員が伝え、授業の組み立て方や実践の様子を教員が報告してきた。回を重ねる中で、他教科における防災の視点を加えた授業実践の報告が加わるようになった。後半のワークショップでは、他県での学校防災教育の実践例や、生活防災(矢守2011)などの視点を提示した上で、防災の視点を取り入れた教育活動について意見交換をし、グループワークの結果を発表するという形式で実施した。成果発表の中では、国語、理科、社会を中心に、教科教育の中で防災の視点を提示するもの、ふだんの生活指導の中で防災の視点を取り入れるものなどが見られた。このワークショップで出された視点は別途「教科における防災マトリックス」として整理を進めている。
この教員研修は札幌のみで開催していたが、道内他地域の教員への働きかけを進めるため、2014年1月には旭川市でも実施した。その際には、2013年3月の暴風雪を受けて新規に作られた暴風雪啓発パンフレットを元に、学校教育の中で暴風雪に関する内容をどのように取り扱うかという観点からワークショップを展開した。
研修会の他に、懇談会構成員である小学校教員自身による授業実践もなされた。家庭科の授業では「寒い季節を快適に」という単元の中で、節電にもなり、停電時の対策ともなる被服に関する内容を取り上げた。また、他のメンバーは小学校5年生理科の「天気の変化」の中で、雲の成り立ちと積乱雲に関する内容を取り上げ、その中で防災の視点を取り入れる工夫を行った。いずれにおいても、札幌管区気象台が授業に関連する資料を提示し、前述した研修会では、参加者に資料データを配布している。
平成26年6月2日、本懇談会は札幌管区気象台長の表彰を受けた。これは、北海道の防災教育に関する地道な活動が評価されたばかりではなく、札幌管区気象台として、今後も防災教育活動の支援に携わっていくという意思の表れでもあると考えられる。さらに、札幌管区気象台は気象庁長官表彰を受賞した。この受賞を契機として、教員、気象台、研究者などが連携し、地域で展開する防災教育の試みがますます広がっていくことが望まれる。