建物耐震性の地震火災の延焼防止効果と感震ブレーカー利用上の注意
特集:地震火災
目黒公郎
2014年9月1日
はじめに
関東大震災をはじめとして、大きな地震災害では大規模な延焼火災が発生することが多い。地震を原因として発生する火災を「地震火災」と呼ぶが、大きくは地震の揺れを原因とするものと、津波を原因として発生するものに分けることができる。後者の津波型火災(1993年の北海道南西沖地震の奥尻島での火災や2011年の東北地方太平洋沖地震での津波被災地での火災)は、津波によって十分な消火活動ができなかったことが延焼火災に至る最大の原因であった。では、前者の地震型(揺れ)火災は何を原因として延焼しているのであろうか。
出火と延焼の原因
初期出火率と対象地域の建物全壊率との関係に強い正の相関があることはよく知られている。しかし、建物の全壊率と地震動にも強い正の相関があるので、初期出火率は建物の被災度に関係しているのではなく、強い地震動によって初期出火しやすい状況が発生することが直接的な原因と言われる場合もある。また建物が全壊(特に倒壊)すると、むしろ延焼速度は遅くなるので、全壊率が低い地域での出火の方が延焼に及ぼす影響が大きいと言われる場合もある。
かまどや七輪などで裸火を使っていた関東地震当時と比べ、地震動による転倒防止や自動消火装置のついた電気/石油ストーブやガスコンロなどを利用する現在では、出火原因そのものは変化している。本号の秦先生(山梨大学)の報告にもあるように、最近では、出火原因の約2/3は電気を原因とするもの(電気火災)になっており、さらにその内訳は、電熱器、送配線・配線器具、電気機器・装置などからの出火である。
ところで、延焼火災は、出火原因が何であれ、出火した火元に対して適切な消火活動が実施されない場合に起こる。そして適切な消火活動を実施する上で、火元となった建物の被災状況が大きな意味を持つ。地震の後の火災は同時多発であり、公的消防力の能力をはるかに超える。しかし地震後の火災は、直後から大規模なものではないので、市民による初期消火が大きな効果を持つ。しかし火元の建物が全壊などの被害を受けていると、「初期対応すべき市民がその下敷きになって対応できない」、「その市民を助け出すことを優先し、初期消火が遅れる」、「倒壊建物の下からの出火に対する対応は素人では難しい」、「狭い道路では、倒壊建物による閉塞で火災現場にはアクセスできない」などの理由から初期消火が著しく難しくなる。この状況を示したものが下の図である。初期出火した火災に対する消火活動は揺れの最中に行うものではない。ゆえに、対象地域の震度が問題なのではなく、被災状況の程度が重要なのだ。
電気火災に対しての対策
地震後の電気器具や通電を原因として発生する火災を阻止するために、揺れを感知して電源を遮断する感震ブレーカーが推奨されている。しかし、この利用には注意が必要だ。それは災害イマジネーション不足が生むマイナスの効果であり、感震ブレーカーを設置したことによって発生する危険性の問題だ。
もっとも簡単な感震ブレーカーは、ブレーカーのスイッチ部分を覆うキャップやスイッチ部分に縛り付けた紐の他端に錘(おもり)をとりつけ、それを錘受けに乗せて置き、揺れによって錘が受け皿から落下した反動で、ブレーカーのスイッチを切るものである。受け皿の大きさや窪みの具合で、どの程度の震度でブレーカーを切るかもある程度調整可能である。メカニズムが簡単なので、誤作動も少なく確実にスイッチが切れるが、ブレーカーをオフにすることで発生してしまうマイナスを考慮していない点が問題なのだ。
この種の装置は、別途に感震装置によって点灯する照明や停電によって点灯する照明との併用、あるいはコンセント単位での利用とすべきだ。住家の大元の電源ブレーカーに単純に設置すると、夜間の地震では大きな問題を発生させてしまう。それは、照明が消えた室内で、転倒物や落下物、床にはガラスの破片などが散乱する中、安全な避難や救助作業などが著しく困難になる点だ。夜間の地震時に照明を一斉に消灯する危険性について深く考えて欲しい。