遅れて来たチリ地震津波―古く新しい問題―
防災コラム
古村孝志
2014年6月1日
日本時間の4月2日早朝に発生したチリ北部の地震(M8.1)による津波は、17,000キロ離れた日本に22時間かけて到達。久慈で最大60センチの津波高を記録した。地球の裏側で起きた津波とはいえ、途中には津波を遮る大きな島はなく、地球表面に広がった津波も、焦点を結ぶように再び日本に集まってくる。南米チリは、太平洋をはさんだ隣国なのだ。
チリ地震津波の発生を受け、北海道から東北、関東の太平洋沿岸に津波注意報が出され、翌日の早朝6時過ぎに津波が到達した。しかし、それは予想時刻より40分近く遅れていた。同様の遅れは、4年前(2010年2月)のチリ南部の地震(M8.8)津波の際にもあった。
この問題に世界中の津波研究者が取り組んだ。最初は、津波シミュレーションに用いられる、太平洋の水深データが疑われたが、最終的には海水の圧縮性や、地球の弾性の影響など、通常の津波計算では評価しない効果が原因であると結論づけられた。ごくわずかな量であるが、津波が地球を半周近くも伝わるうちに、大きな誤差になるらしい。
1960年チリ地震でも同様の遅れがあったはずだが、当時は検潮所の時計の問題として片付けられていたのかもしれない。近年の高精度の津波観測によりようやく問題が認識され、そして最近の津波研究の進展により問題が一気に解決したのだ。
という話をしていたら、この問題は、ずいぶん昔の教科書に載っていると、ある研究者が教えてくれた。図書室を調べると、旧字体で書かれた古い教科書*に、海水の圧縮性や地球の弾性が、演習問題として詳しく載っていた。
*松澤武雄、『地震學』、角川書店、374p、1950.