洪水に関する防災情報の提供の充実について

特集:豪雨災害と防災情報

国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課 水防企画室長 朝堀泰明

2014年6月1日

1. 従前の洪水に関する防災情報

(1) 従前の各種水位の位置付けと防災情報
 洪水時における河川の防災情報は、基準水位観測所(河川の一定の区間を代表する水位観測所)において定められている各種水位に対応して発表されることとなっている。
 従前の洪水予報河川(水防法第10条第2項又は同法第11条第1項に基づき国の機関又は都道府県知事が洪水予報を行う河川)における各種水位の位置付けと防災情報の関係は下表のとおりである。

水位の位置付け発表される情報
はん濫
注意水位 
・避難準備情報発表の目安
・水防団の出動の目安 
はん濫注意情報
避難判断
水位 
・避難勧告等の発令の目安
・住民の避難判断の参考 
はん濫警戒情報
はん濫
危険水位 
・洪水により相当の家屋浸水等の被害を生じるおそれがある水位はん濫危険情報
(はん濫が発生したとき) はん濫発生情報

 従前の運用では、水位が避難判断水位に到達した時点で避難勧告等が発令され、はん濫危険水位に到達するまでに避難が完了することを想定した水位の設定がなされている。
(2) 従前の運用の課題
 平成25年度にはん濫警戒情報以上の防災情報が発表された直轄河川を対象とした調査の結果、はん濫警戒情報またははん濫危険情報の発表を受け避難勧告等を発令した市町村は、それぞれ全体の17%、29%となっており、洪水に関する防災情報が避難勧告等の発令に十分に活用されているとは言い難い状況にある。この原因としては、防災情報の発表側の観点からは以下のようなものが考えられる。
① 避難判断水位という比較的低い水位からの避難勧告等の発令を想定しているため、市町村長が当該時点で避難勧告の発令等を判断しづらいこと。この低い水位からの避難開始の想定は、各種水位が越水、浸透、侵食といった様々な破堤原因を総合的に考慮していることが、その原因の一つとなっている。
② はん濫危険水位等は基準水位観測所が受け持つ区間の最も危険な個所の危険水位から決定されており、はん濫危険情報等が発表されたとしても、当該発表時点では受け持ち区間の大部分では未だ危険な状態になっていないこと。

2. 洪水に関する防災情報の提供の充実
 平成26年4月、市町村地域防災計画に避難勧告の発令等の基準を具体的に記載されるよう、内閣府により「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン(案)」が改定され、これに併せ、国土交通省においても、以下のとおり洪水に関する防災情報の提供の充実を図ることとしたところである。
(1) 各種水位の位置付け及び設定方法の変更
水位の位置付け
はん濫注意水位 ▪ 水防団の出動の目安
避難判断水位 ▪ 避難準備情報発表の目安
はん濫危険水位 ▪ 避難勧告等の発令の目安
 洪水時におけるはん濫発生の原因(越水、浸透、侵食)別に危険性を評価することとし、従前からのはん濫危険水位等の各種水位については越水に関する危険性を評価するための指標とし、これに伴い各種水位の位置付けを右表のとおり見直すとともに、危険水位等の設定方法を、避難等に要する時間も考慮して、下図のとおり変更することとした。
 なお、水位の位置付けはあくまでも目安であり、避難勧告の発令等の具体的基準を市町村地域防災計画へ記載する際には、市町村が河川管理者と相談する等して、地域の実情等を十分に考慮することが重要である。
 一方、浸透・侵食についても今年の出水期までに暫定的な指標を検討し、危険性が高まった場合には、市町村長等へ情報提供することとしたところである。
(2) 市町村ごとの危険個所に関する情報提供
 各市町村が避難勧告等の発令の具体的な基準と避難勧告の範囲を明確に設定できるよう、市町村ごと及び氾濫ブロックごとに危険個所及び危険水位等の情報を、出水期前に市町村に提供することとした。