注目されるグループ化補助金
シリーズ「東日本大震災」
田中淳
2013年12月1日
今回の東日本大震災の復興を考える上で、いくつかある論点のうち、地域産業の復興をどのように果たすかは重要な課題の1つである。もちろん、地域産業の再生は、災害時には常に問われる論点である。しかし、今回の被災地では、産業構造が水産加工業等の特定の産業に特化している地域が多い。このような地域特性は、地域産業の再建が、地域の再生全般を強く規定すると想定される。就労の確保が住宅再建に影響を与えるためである。
これまでの災害では、公的な産業の再建支援は、融資や利子補給が主であった。それを補うために、被災者の就労の場を創造する様々な活動が行われてきた(永松、2011,「キャッシュ・フォー・ワーク」,岩波ブックレットNo.817)。これらの活動は、ボランティア活動に支えられた「いきがい」の確保や当面の生計の確保という面を重視していると言えよう。
その中で、今回の震災で初めて制度化された「中小企業等グループによる施設・設備の復旧整備補助事業(以下、グループ化補助事業と略す)」は、中小企業庁が実施主体、県が窓口となり、申請のあった地域産業グループに対して、再建に要した施設復旧にかかった費用の4分の3を補助するものである。これまで、25年8月9日の8次まで募集・採択されている。これまで支援のスキームがなかった2次産業や3次産業に属する企業再建を通じて地域産業の再建を支援する政策として注目される。そこで、その効果と可能性を探るために、実際に補助事業に採択された石巻市、気仙沼市ならびに南三陸町に立地する企業を対象に、2013年7月(宮城県石巻市および南三陸町)および2013年9月(宮城県気仙沼市)の2度にわたる聞き取り調査を行った。
今回の調査対象企業は、早期に再建を決定し、再建を図っており、その過程で、グループ化補助金制度を知り、申請・採択されている。したがって、ほとんどの企業が、再建に向けての取り組みを申請前から開始していた。補助金の申請前から、融資交渉をしていた企業が多い。つまり、事業再開の呼び水となったというよりも、後押しをしている色彩が強いが、「4分の3補助は天の助け・・・もしグループ化補助金が無かったら石巻は壊滅だった」という声に見られるよう好意的な評価を受けている。具体的には、「保険で再建資金はあるが、運転資金も含め資金繰りが楽なったのが大きい」、「<震災で>債務超過になったが、資本を大きく減らさずに済んだことは大きい」、「補助金がおりる、おりないが融資には大きく影響した」といった側面が指摘されていた。加えて、「やみくもに借金返済のための残りの人生であったのが、同補助金によって希望がもてた」といった精神部分での効果も指摘されている。
その一方で、制度が事前に確立していたわけではないので、いくつかの課題も指摘された。そもそも、制度の周知は徐々に進んだが、少なくとも初期の募集段階では不十分であり、公式ルートを通して制度の存在を知ったというよりも、知人からの「口コミ」でたまたま知った企業も少なくない。第5次、第6次と時期が後になる程、商工会議所が主導的に動いた事例もあるが、当初は県がまとめた事例や企業の元からのつながりを母体としている事例も見られる。グループ化補助金の採択が融資につながった事例は予想ほど多くなかった。初期の周知不足は、すべての金融機関が制度について十分な理解をしていなかったことを指摘する声に見られる。
また、準備の期間が短く、初期には1週間程度の余裕しかなかった企業もみられた。その短期に、事業計画と全ての施設・備品の見積もりを揃えることは大変だったという。どのような費用項目を計上できるのかといった点で、企業が自己判断ないしは自主規制している事例も少なくない。たとえば、「個人事業主は応募できないと思った」、「疑わしきは申請しなかった」、「事務所に必要なパソコンなどの事務用品は、申請できないと聞いていたので、申請を自粛した」、「消耗品は申請を認められないということも知らなかったため、建設会社に依頼した見積書に記載されていた消耗品の項目は申請が認められなかった」などである。事業計画が見えない中で申請したために部分的な再建支援に終わっている、あるいは申請時の額よりも工事費用等が高騰したため、持ち出しも多かったという。
現時点では、地域産業の再建、地域の雇用の確保にプラスに働いたことは確かである。今回、聞き取りした企業が優良企業だったこともあり、震災前からの事業計画に即して、事業を集約したり、特化した申請であった。しかし、地域産業の再生に、どの程度有効だったか、また投資効果があったのかは、今後の推移を慎重に観察し、検証していく必要がある。とりわけ、私有財産への公的資金の注入である以上は、地域経済再建への波及効果を検証していくことが求められる。