平成25年東京大学防災訓練-地区本部の検証

コラム

田中淳

2013年12月1日

 2013年10月30日に、5回目となる東京大学災害対策本部訓練が実施された。今年度は、本郷の文系10部局と合同で行われた。初めて複数部局との合同訓練であった。最も主要な目的は、以下の3点となる。

 1点目の初動マニュアルは、平成24年7月30日付けの「震度5弱以上の地震における初動の行動指針及び災害時の部局避難場所について(通知)」で全学的に示された。このマニュアルでは、初動時には建物単位に避難誘導や管理を行うことを原則としている。ひとつの建物に複数の部局が混在しているし、また図書館のように、学内の多様な部局から利用者が来館している組織もあることから、直後は部局よりも建物で判断・管理した方が学内の実態に即していると考えられるからである。さらに、マニュアルでは避難を建物外への一次避難と、より広い、安全性の高い2次避難とに分けられている。今回、参加した10部局の建物の多くは、赤門から正門にかけての本郷通りに立地しており、2次避難場所が隣接していることから、避難場所として計画されているスペースが現実的かどうかを確認することも付随する目的であった。
 第2の部局合同本部は、学内を隣接する2次避難場所で幾つかの地区に再編成し、それぞれの地区に災害対策本部を設置する形式の実行性を検討するために実施した。個々の部局単位での対応と比べると、地区本部制は、人的資源や大教室・ホール等の施設といった物的資源をまとめることで、分割損が少なくなる。また、全学本部で部局間調整を行う対応と比べると、調整に要する時間の短縮化が期待される。この地区本部制の確認は、昨年のCIDIRニューズレターで指摘したように今年度の訓練の最大の目的である。
 地区本部制を検討するために不可欠なポイントが、第3の全学本部と地区本部との役割分担の明確化である。地区本部で判断する事項と全学的に判断する事項とを区分しておく必要がある。昨年度は、病院までの動線の確立と、外部問合せに関する役割分解点を訓練で確認したが、文系部局における役割分解点を対象に規程整備も視野に入れた検討を行った。
 今回の訓練を通じて、主要3目的に対する有益な示唆が得られた。まず、避難場所のスペースに関しては、全構成員が参加した訳ではないが、現実に近い検証ができた。今回の訓練から、大規模なイベントが開催されている場合や、学園祭等特異日についても検討する基本的データが得られたと言えよう。
 合同本部については、まず単独部局では、資源に制約があることも共有できた。その調整に関して、合同本部制は、情報共有がしやすい点や部局間の調整がしやすい点では有利だが、部局の構成員に責任を持つ部局長が現場から長期離れて合同本部に詰めることは難しいという評価であった。地理的な近接性を考えれば、合同本部は情報集約と情報共有を図り、必要に応じて調整会議を開催することが現実的と考えられる。そのためには、調整に必要な事項について想定しうる事項すべてを予め洗い出し、事前に定めておくことができる内容は計画化しておく必要がある。
 全学本部と合同本部・部局本部との役割分岐点についても、災害対策制度全般に通じるものである。国の災害対策も国・都道府県・市町村の3階層からなっており、企業においても本社・支社等の階層性をひいており、この上位-下位本部の役割分解点は一般的な課題だからである。今回の訓練を通じて、原則とともに、個別の論点に対して事前から明確化・共有化していくことが求められる。次年度以降の訓練の最大の目標となるだろう。

図1 避難状況

図2 図書館団地合同災害対策本部