CIDIR緊急地震速報放送装置の学内展開
緊急地震速報
鷹野澄
2013年12月1日
CIDIRニュースレターNo.18で紹介した、既存の放送設備向けの緊急地震速報放送装置(図1)が、学内で急速に展開されている。2012年10月に理学部が本放送装置を導入して防災訓練の時から利用開始したのを皮切りに、11月には地震研究所、2013年3月には東大本部棟でも利用開始された。2013年6月には工学部にも導入されて、やはり防災訓練の時から利用開始された。
表1 緊急地震速報放送装置の放送開始条件(2013年8月から改訂)
この放送装置は、CIDIRが地震研と共同で開発したもので、単に緊急地震速報の警報を放送するだけでなく、警報後も送られてきた情報を判断し必要に応じて改訂情報を放送する、新しい緊急地震速報の伝達方式を採用しているのが特徴である。既設の多くの放送設備に接続して利用可能であるため、CIDIRでは、学内の地震防災力強化の一環として、東大環境安全本部と共同で、この緊急地震速報放送装置の学内展開を推し進めている。この結果、すでに白金キャンパス(医科研)にも導入されて、12月の試験放送の後に利用開始の予定で 、駒場キャンパス、柏キャンパスでも導入準備中である。多数の放送設備を持つ本郷キャンパスでは、施設部により一斉放送設備の整備が進められており、それにあわせての導入が予定されている。
■放送開始条件の変更
本放送装置の導入にあたっては、各施設の担当者から、「むやみに放送しないでほしい」という要請が多く寄せられた。また、本装置を2012年4月に試験的に利用開始してから2013年3月までの1年間に3回の放送があったが、その時の東大キャンパスの揺れは震度2が2回、震度3が1回で、いずれも警戒を要するような強い揺れではなかった。そのようなこともあり、利用開始から1年を経たのを機に、本放送装置の放送開始条件を見直すことにした。
当初の放送開始条件は、条件(1)「気象庁が警報発表した時に、震度4(推定計測震度3.5)以上」と、条件(2)「地震の規模がM7以上となった場合は震度3(推定計測震度2.5)以上」である。条件(1)は気象庁の警報発表の基準に倣ったもので、多くの場合この条件により放送が開始される。しかし詳しく調べると、この警報が出ても強い揺れとならない場所が広く存在することがわかった。また過去のデータで、この条件(1)の推定計測震度3.5以上を4.0以上といくぶん高くするだけで、放送が約1/3に激減することもわかった。また、条件(2)は巨大地震を想定したものであるが、緊急地震速報で推定した地震の規模は実際の観測よりかなり大きくなることがわかった。このような検討から、放送開始条件を表1のように改訂することにした。この改訂により昨年1年間の3回の放送は0回となるが、これは「キャンパスに強い揺れが予想されなかった」為である。実際に強い揺れが予想されたときは適切に警報が出る。また、この改訂により、気象庁が警報を出して携帯電話が鳴ったときでも、キャンパスに強い揺れが予想されないならば放送が開始されなくなった。このようなケースは比較的多いと予想されるが、特に携帯電話の鳴動と放送開始が一致しないときがあることは、今後広く周知する必要があると考えている。
■今後の予定:多言語化ときめの細かい情報伝達に向けて
本放送装置の導入により、学内の多数の人に地震の発生を伝えて、「安全な場所で身を守る」ように伝えることができるようになった。本学には留学生も多いことから、本装置の放送音声は、日本語だけでなく日本語と英語の同時放送も可能である。今後は、英語圏以外の外国人向けの多言語化や、実験室等の危険物のある場所での早期注意喚起などの、きめ細やかな情報伝達が課題であろう。これらは放送のみでは難しいので、これらを可能にするパソコンの受信アプリを開発して、放送と併用して利用することを推奨したいと考えている。
謝辞:共同開発者である地震研究所の鶴岡弘准教授と、環境安全本部ならびに施設部の皆様、学内専用VLANを提供頂いている、情報基盤センターの皆様に深く感謝する。
図1 学内向けに開発した緊急地震速報放送用装置の構成