災害情報のレベル化の意味と論点
特集:レベル化が進む災害情報
田中淳
2013年6月1日
いくつかの災害情報で、危険度を段階的に表示するレベル化が図られている。たしかに、元から気象情報は、全般的な気象情報から注意報、警報と段階的に発表されてきた。しかし、最近、検討が進んでいるのは、一般住民に適切な対応行動を促すことを目的に、行動と結び付けた情報の区分を意識している点に特徴がある。
避難にいたる状況ではないが生活に大きな影響を与える降灰予報もあるが、もっとも大事な避難行動を意識した情報が多い。河川の氾濫や土砂災害、噴火警戒レベルなどである。すなわち、警報を災害発生の危険性でレベル化し、市町村の避難勧告判断を支援したり、住民が避難を自己判断したりする目安を提供しようとするものだ。
レベル化の試みには幾つかの背景がある。気象・地象を問わず、自然現象の予測には不確実性が付きまとう。まして、災害に結びつくかどうかは、ローカルな地形や社会の営みなど多くの要因があわさって決まっていくために、その予測の不確実性はさらに高まる。このために、一つの基準であれば見逃しを防ぐために、ある程度低い基準で設定せざるを得ない。より切迫性が高まった状況を伝える情報が必要となる。これまでも、例えば大雨警報発表後に、記録的短時間大雨情報が、土砂災害警戒情報が、あるいは「これまでに経験したことのないような大雨」という情報が発表されてきた。しかし、残念ながら、「情報」でしかなかった。あるいは、河川情報のように特別警戒水位あるいは計画高水位といった情報名称で危険性を伝えようとしてきたが、危険度の順位を名詞や副詞で伝えることは、一定の知識を要求した。
もうひとつの解決策としては、警報の上に緊急警報など、共通の上位の警報、いわゆるスーパー警報を設ける方法がありうる。筆者も含め、何人かの研究者が主張してきた解決策である。しかし、東日本大震災の経験は、この主張に疑問を抱かせるものだった。津波警報「津波」に対して、「大津波」はいわば唯一のスーパー警報だったが、筆者らの調査でも、内閣府の調査でも、今回初めて大津波警報が発表された北海道太平洋岸や中部での避難率は20%程度に留まった。さらに、以前のニューズレターでも紹介したが、実験的にも現行の記録的短時間大雨情報と仮想の大雨緊急警報とで避難意向に有意な差はなかった。図1に示したように、「レベル3からレベル4に上がった」という表現が有意に避難意向を高めた。
図1 スーパー警報とレベル化の効果
方向として、レベル化は危険性や切迫性を伝えるには有効な表現だと思う。もちろん、災害情報を使い自ら判断する人づくりは欠かせない。それ以外にも、レベル化にも残された課題は多い。現段階では、一般住民が警報等災害情報を入手するメディアとしては、テレビが多い。しかし、レベルの変化を時々刻々伝えることは、テレビやラジオにはかなり工夫が必要だ。また、レベル化の軸は、基本的には災害に結びつくポテンシャルであろうが、気象災害ではあらゆる現象レベルが同時に高まる可能性が高く、情報洪水となりかねないし、どの行動が適切かつかみにくくなる。もっとも適切な情報の在り方は、その時々の予測技術とメディア、利用者とのぎりぎりの関係で決まる永遠の課題であり、将来を見据えつつ現状を冷徹に見た議論が求められる。