高齢者施設の水害時垂直避難における支援特性が避難完了時間に与える影響に関する研究

防災コラム

東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 伊東恵朗
沼田宗純
2023年3月1日

 厚生労働省によると、高齢者福祉施設利用者のケアなど避難先での業務継続に不安を抱いている施設は、対象となる洪水浸水想定区域内や土砂災害警戒区域内にある2,172 施設のうち1,627 施設(約75%)である。災害の進行状況によっては、施設の職員が参集できず、避難誘導のための体制が確保できない事態も想定され、地域の実情を踏まえた、施設利用者の家族や地域住民、地元企業等との間で避難誘導を支援してもらうための連携体制を構築することが必要である。
 そこで本研究では、避難の実効性を高めるための方策として周囲との連携が挙げられている高齢者施設において、支援特性が避難完了時間に与える影響について調べることにより、高齢者施設における効果的な避難支援を提案する。本研究では、千葉市にある特別養護老人ホームへのヒアリングを元に、高齢者施設における水害時施設内避難の業務プロセスの構築、業務量の評価、人員配置に関するシミュレーションモデルを構築した。その結果、施設の2 階への垂直避難では、介護士と無資格者の両者で避難完了までの時間が変わらず、早期の支援が有効であることから、周辺事業者や周辺住民との早期での避難支援を実現させるための連携が有効であることが分かった。また、施設の3 階への垂直避難では、介護士と無資格者に違いがあったが、エレベーターの待ち時間がボトルネックとなり限定的な効果に留まった。さらに、3 階への垂直避難において担架も用いて利用者を移動させた場合、エレベーターのみで利用者を移動させた場合に比べて、避難完了時間を短縮できることを示した。このことから、施設の3 階への垂直避難では、エレベーターがボトルネックとなること、介護士が多く存在する場合には担架での垂直避難を同時に行うことが有効であることを定量的に示した。ただし、担架で高齢者を移動させる場合には、支援者の負担をどのように軽減できるのかが今後の課題である。