日本災害情報学会シンポジウム「阪神・淡路大震災から20年―今、ライフラインはどうなっているか ―」を振り返って
●登壇者●
久保田 伸 東日本電信電話 ネットワーク事業推進本部サービス運営部 災害対策室 室長
池田 正 NTTドコモ サービス運営部 災害対策室 室長
林 博基 東日本旅客鉄道 鉄道事業本部 安全企画部 防火・防災グループ 課長
猪股 渉 東京ガス 防災・供給部 防災・供給グループマネージャー 副部長
木下 信之 東京電力 総務部 防災グループマネージャー 部長
橋本 英樹 東京都水道局 総務部 施設整備計画担当課長
●日本災害情報学会企画委員●
入江さやか NHK放送文化研究所 メディア研究部 上級研究員
福島弘典 ドコモCS ネットワーク建設事業部 コアネットワーク部 部長
2015年1月24日、東京大学武田先端知ビル武田ホールにて、日本災害情報学会主催のシンポジウムが開催されました。シンポジウムでは、通信、電気、ガス、水道及び鉄道の各機関の防災担当者が集まり、田中センター長をコーディネーターとするパネルディスカッションが実施されました。
2015年は阪神・淡路大震災から20年になります。この間、社会の中で各ライフラインはどのように変わってきたのか、今後起こり得る災害時に利用者は何を心掛けるべきか、各ライフライン代表企業の担当者が明らかにするという企画でした。
ディスカッションでは、各機関の災害対応の基本方針をそれぞれ解説され、供給等を継続する機関と停止する機関があることを明確にしながら、更に深い議論へと進みました。具体的な議論のポイントは次のとおりでした。
・阪神・淡路大震災でわかったこと
・阪神・淡路大震災から東日本大震災の間に各機関で取り組んだこと、変わった社会環境
・東日本大震災での各社の対応
・首都直下地震の被害想定と対策
・首都直下地震で想定される各機関の「過酷事象」
・首都直下地震においてできること、できないこと(ユーザーへのお願い)
シンポジウムは、約100名の聴講者が集まり、盛会に終わりました。登壇した各機関の防災担当者に後日集まっていただき、当日を振り返ってもらいました。
A round-table talk on The Symposium
(1)シンポジウムの企画を知ったときどのように感じたか?
久)日本災害情報学会の企画委員会の方から話を頂き、嫌と言えませんでした。
池)そうそう、「大丈夫だよね」と問われ、「ハイ」としか答えられませんでした。
木)私も話をいただいて、社内関係者に相談したところ、「受けた方がよいのでは」とアドバイスを受け、返事をしました。
林)私もです。非常にCIDIRにお世話になっていたので、軽い気持ちで受けました。
橋)阪神・淡路大震災20年という企画を聞いて、20年前に兵庫県に復旧応援に行ったことが頭に浮かびました。あのときは大変だったなと。またあの時の様々な経験が今、活かされているんだなと思いました。いい機会でもあったので、参加のお話があったときは、すぐに引き受けました。また、他の企業と同様、水道も阪神・淡路大震災は大きな転換点でもあったので、いろいろな取組みを紹介するいい機会だと思いました。
猪)当初はごく一般的なシンポジウムと思い,当社の地震防災対策について淡々とプレゼンするものと受け止めておりました。軽い気持ちで引き受けてしまいましたが・・・打合せに参加してみると,田中先生,福島さん,入江さんにリードされながら,ライフライン各社が相互に理解を深めながら構成を組み立てる,とても素晴らしい企画だったということに途中で気付きました。
入)それぞれに組織を背負った皆さんゆえ、どこまで本音の話ができるかな、事前の準備が相当難しそうだな、と感じました。
福)ライフライン機関側も、災害時に知っておいて頂きたいことの説明は日頃からかなり行っているが、なかなか伝わり切らないところがある。このような情報を平時から少しでも多くの方に伝えることも、災害情報学会のミッションではないかと思いました
(2)シンポジウムに対する社内での評判はどうだったか?
久、池)社員が来ており、いろいろなライフラインの話を聞けて良かったとの評判でした。
木)うちも社員が来ており、ライフライン機関の使命等について、各社明確であるのがわかって良かった。また後日社内で報告したところ、ライフライン機関には安全停止や供給継続等機能が異なることを、明確にして議論したことは大変良かったとのコメントが多くありました。
橋、林)特に周知はしていませんでした。
猪)職場内でハンドアウト資料等を回覧しましたが,ライフライン各社の防災対策が体系立てて纏められている資料として大変好評でした。
(3) 当日は思っていたとおりにアピールできたか?
久)途中丁寧にしゃべり過ぎ、終わってから「長い!」と企画委員に怒られました。
池)丁寧に話をしようとすると時間が必要となるので、コンパクトに説明を行ったので、どの程度理解されたかが、若干、気がかりでした。
木)限られた時間の中では、ある程度説明できたと考えています。
林)途中、丁寧にしゃべり過ぎ、時間を余計に使用してしまいました。
橋)聴講者に対して、短い時間に正確に、かつ平易な表現で伝えることを心がけましたが、うまく伝わったかどうかという感じです。もう少し、時間があれば、わかりやすく詳しく説明できたのかなと思っています。
猪)田中先生が各社の基本方針に基づき,わかり易いグルーピングをしてくれたので,ス コープを絞り易かったです。マイコンメーター,防災ブロックにより「供給を止める」こと,安全確保に対する取り組みついてはそれなりに伝えられたかなと思います。
(4)ライフライン各社相互の関係について
久)なかなか今までこういった機会を持つことができなかったので有意義な場であった。今後も継続的に意見交換をしていきたいですね。これまで各機関では、できることばかりの議論をしてきたが、今回はじめて、それぞれウィークポイントについて議論しました。
池)シンポジウムの準備を通じて、今まで見えなかった相互依存関係が見えるようになりました。
木)各社における、共通の課題が見えてきました。また今回の議論の中で、ライフラインがかなり機能しない状況についても議論をしたため、従来に比べてライフライン間の繋がりが明確になり、ユーザー目線で議論されたことに価値がありました。
林)シンポジウムの準備を通じて、いろいろと各社間で関連があることがよく解りました。
橋)ライフラインとしての震災への取組は各社それぞれ精力的に進めているのだなと感じると同時に、ライフライン相互に大きな関係があるのだなと改めて感じました。
猪)ライフライン各社の相互連関,相互依存について,もっと現実的に考える必要があると感じました。中央防災会議の被害想定は相互連関等を意識していないので,一般企業がBCPを策定する際の前提条件としては少し情報が不足してしまうかも・・・
また,一般需要家に対する復旧過程においては,都市ガスだけ先行して復旧しても意味はありません。電気,水道等があってこその都市ガスなので,復旧計画等を共有することが重要なのは言うまでも無く,更には需要家目線での相互連関を考えることの重要性も感じました。
福)今回、関係機関が集まって議論し、相互依存の課題が認識されたことは大きな意味があったと思います。各ライフラインシステム自体の相互依存だけでなく、その運用や復旧作業など、社員が業務として実施する際の相互依存もあり、非常に大きな課題であると感じました。
(5)シンポジウムとは別に、もっと話してみたいライフライン機関は?
久、池、木、林)同じライフライン事業者として、道路関係者や下水道事業者の意見も聞いてみたいと思います。また、東日本大震災でも大きな影響があった石油関係の事業者にも話を聞いてみたいと思います。
久)金融関係、保険会社などもありますよね。
橋)個人的には、水道事業を運営する上で重要な東京電力さん、災害時での情報連絡に重要なNTTさん、ドコモさん、自家用発電で利用している東京ガスさん、災害時の参集に関係するJR東日本さんとはもう少し深いお話しがしたいですね。
猪)インフラ設備を所有する機関とは何らかの接点があると思いますので,「広義のライフライン」という考えに基づき,話すべき相手を探してみるのも良いのではと思います。
入)東京メトロや都営地下鉄、私鉄、新幹線を運行するJR東日本、それに東日本高速などはどうですかね?
(6)その他云いたい事があれば
入)テレビやラジオといった「メディア」も情報を流す「ライフライン」といえると思います。
メディアが災害時に「ライフライン情報」をどのように効果的・効率的に伝えるか、また、メディア自身が首都直下地震や南海トラフ巨大地震の際に機能を継続できるのか、きちんと検証し情報共有する必要があると思います。
ライフライン各機関が組織の枠を超えて話し合うこうした企画を今回で終わりにしてしまうのはもったいない、また今回の内容をあの日の参加者限りにしてしまうのももったいないですね。終了後の懇親会でも話題になっていましたが、ブックレットなどの形で広く共有できないものでしょうか。
橋)田中先生をはじめ、事前打ち合わせにあまり参加できず、申し訳なかったと思っています。 当日のシンポジウムは無事成功し、内容も好評だったとお聞きして、参加した私としてもよかったと思いました。
入)なんといっても時間が足りませんでしたね。皆さん、言い足りないこと、説明しきれてないことがたくさんあるのではないでしょうか。あと1時間あれば…。
壇上でみなさんの背中を見ながら、いい意味でリラックスしておられたと感じました。この日だけ集まったメンバーが「てんでんこ」に自分のことだけを話しているのではなく、日ごろからお互いに横のつながりをもっているんだな、話し合っているんだな、とわかる空気も、参加者からの好感度が高かったのではないでしょうか。
福)今回、田中センター長が供給、停止というカテゴリー分けを提言されたのが非常に深い意味があると思いました。その延長で考えると、通信も発災直後は規制するので、ある意味停止しているのかもしれない。でも鉄道、ガスの停止は命を守るため、通信は自設備を守るため、と考えると別カテゴリーか?また鉄道、ガスも中期的には供給しなければならないことを考えると、時系列的なカテゴリーの変化があるか、等、更なる検討の契機を頂いた気がします。
各機関とも、シンポジウムの準備を通じて、各社の重要性やその相関がよく見えてきて、参加した各機関においても、非常に情報を得る機会となり、満足感を得ることができました。
最後に、今回のシンポジウムを発案、企画及び運営して頂いた企画委員の皆さまと、総合司会をしていただきました半井さん、そしてまとまりの無い我々をコーディネーターとして上手にまとめていただいた田中センター長に感謝致します。
(2015.2.2 登壇者6名と日本災害情報学会企画委員2名)