緊急地震速報の誤報(空振り)に想う
緊急地震速報
鷹野澄
2013年12月1日
8月8日16時56分の和歌山県北部の地震では、近畿地方を中心に、西は九州の大分県から東は関東の千葉県までの広い範囲に緊急地震速報の警報が出されたが、震度1以上は観測されず、これまでで最大規模の誤報(空振り)となった(8月21日気象庁報道発表参照)。
■誤報(空振り)の発表状況
今年7月7日までに発表された緊急地震速報の警報は135回で、そのうち警報が空振りとなった事例は75回、うち43回は一部地域で震度3以上が観測されているが、31回は警報区域の全域で震度3未満となった誤報(空振り)で、残る1回も、地震観測点のソフトウェアの誤りによる誤報(空振り)であった(図1)。気象庁は、2011年3月11日の東日本大震災の直後から誤報(空振り)が多発した為、2011年8月にソフトウェアを改修したが、その後も昨年2月29日の千葉県東方沖の地震や6月21日の宮城県中部の地震など、相変わらず誤報(空振り)は出ている。
■誤報(空振り)が生まれるしくみ
図1の31回の誤報(空振り)の原因は、25回が「複数の地震の分離ができなかったもの」、6回は「ノイズの影響等によるもの」である。誤報発生のしくみとしては、「(A)タネとなる小規模な地震が発生したとき、その地震波が到達するタイミングで、(B1)離れた観測点で障害が発生、または、(B2)離れた場所で別の地震が発生して、(A)の地震の規模を過大に評価した」が多いようである。8月8日の和歌山県北部の地震は(A)+(B1)の例で、昨年6月21日の宮城県中部の地震は(A)+(B2)の例である。(A)のタネとなる小規模な地震は、概ねM3前後で、平均すると1日に数十回ぐらい発生している。そこに(B1)の観測点の障害や(B2)の別の地震がタイミングよく発生する可能性は(あまり高くはないが)常にある。
さらに厄介なのは、(A)の小規模地震の処理が終わった直後に、その地震波が到達するタイミングで(B2)の離れた別の地震が発生した場合で、このときは、(B2)の地震の緊急地震速報の処理が開始されないことがある。昨年5月29日の千葉県北西部の地震(M5.2、最大震度4)で緊急地震速報の予報が一切発表されなかったのがその例である(平成24年5月29日報道発表)。もしこの地震が震度5弱を観測していたなら「完全な見逃し」となっていた。
■誤報(空振り)の予防
8月8日のとき警報が出されたのは、地震検知後18.5秒後であった。内陸のM7.8の地震で地震検知後18.5秒も経過していれば、震源の周辺の複数の観測点に強い揺れが来ている筈である。もし情報を出す前に、近くの気象庁やHi-netの観測点のデータで情報の確からしさを確認すれば、この誤報は出さなくて済んだだろう。このような情報発表前の品質検査(QC)は、誤報(空振り)の予防として有効であり、是非実施してほしいと考えている。
■誤報(空振り)は本当に許容されるのか?
気象庁の調査(WEB調査)では、「空振り」に対して、実際の震度が0でも26.3%、震度2の揺れなら44.5%が「許容できる」と回答している。しかし、私が緊急地震速報の放送装置を学内に展開した時は、これとは異なり、各施設の担当者からは「空振り」に対する厳しい意見が寄せられた。一般の利用者ではなくて、緊急地震速報を実際に館内放送や装置制御などに導入しようとする実務担当者にとって、「空振り」は導入の妨げとなると感じられた。緊急地震速報の本格的な利活用を推進するためには、誤報(空振り)を減らす事が重要であろう。
「見逃し」の状況
ここで主題から外れるが「見逃し」の状況にも簡単に触れておく。今年7月7日までの間に、最大震度5弱以上を観測した112回の地震に対して、警報が発表できたのは63回で、残り49回は「見逃し」であった。ただし、そのうちの36回は緊急地震速報の予報が出ていたので、予報も発表できなかった「完全な見逃し」は13回である。その多くは、2011年3月11日の東日本大震災の直後で、地震検知が困難であったためとされている。