消費者の行動変容への対応に苦慮するスーパーマーケット
特集:南海トラフ地震臨時情報発表1年
一般社団法人全国スーパーマーケット協会 主任研究員
長瀬直人
2025年9月1日
南海トラフ地震臨時情報(以下臨時情報)発表によるスーパーマーケットへの影響について、(一社)全国スーパーマーケット協会は25 年7 月に調査を実施、関東以西のスーパーマーケット87 社から回答を得た。(文中の% は無回答・不明を含む集計値)
人手不足の現場は対応に苦慮
24 年8 月8 日に日向灘を震源とする地震が発生し、同日、臨時情報が発表された。直後から約3 割(29.9%)のスーパーマーケットで、飲料水や米、カセットボンベなど、防災関連商品の需要が急増した。さらに翌9 日に神奈川県西部で最大震度5 弱の地震が発生、関東や東海でも消費者の備蓄行動に拍車がかかった。一部の店舗では「水を求める客で売場が埋まった」「在庫確認の電話が殺到した」という回答も寄せられている。その結果、46% で備蓄関連商品(米、水、カップ麺等)の欠品が発生し、
購入数量制限などの対応を実施した企業は18.2% にのぼった。人手不足と働き方改革が進む店舗運営の下では、人員の確保は容易ではなく、通常業務に影響が出た店舗もみられた。
調査に対しては、こうした消費者による過剰な備蓄行動を抑制する情報発信についての要望が相次いだ。行政に向け「一般市民向けに、臨時情報の正確な意味と推奨行動を明確に発信してほしい」、過熱したメディア報道に対しては、「欠品、品薄の売場映像が繰り返され、混乱を招くので、せめて画面端に撮影日時の表示を義務付けてほしい」などの声が寄せられた。
需要急増時の物流確保には大きな課題
臨時情報の発表は、多くの企業が夏季休暇となるお盆と重なり、需要急増への対応に必要な物流確保を困難にした。「お盆商戦前で、発注はすでに締め切られており、倉庫や物流網に余力がなかった」「商品が足りず、問屋に自社便を出した」などの対応に追われた。物流については「2024年問題」の影響もあり、今後、個別に新たな配送手段を確保することが一層困難になると予想される。売場に商品が並ばない状況は、消費者の買いだめ心理を刺激することにつながる。臨時情報発表時の物流に対し、だれ
がどのように支援するか、今後の大きな課題として浮かび上がった。
「平時と災害注意時のはざま」で個別対応に限界
今回の経験は、これまでほとんど注目されてこなかった災害注意時と平時のはざまにおける課題を浮き彫りにした。はじめての臨時情報に対し、「発表=地震が迫っているわけではないと理解した」が55.2% と大勢を占めたものの、「判断が難しく、内容があいまいに感じた」も28.7% に達した。発表から約1 年が経過し、事前準備がなく業務に支障が出たことを教訓に、37.9% が「対応可能なマニュアルの整備、改訂」に着手したことは、大きな一歩といえる。
一方で、「小売業向けの対応指針を行政と作成・共有したい」(39.1%)との要望も多い。近年、地方自治体とスーパーマーケットの間で災害時の協定を締結する動きが進み、食のライフラインとして地域に協力する取り組みが広がっている。しかし、臨時情報発表は、実際に地震が発生したわけではなく、その対応は各企業に委ねられる。実際には、該当地域住民の約8 割が「すぐに地震が起こると思った」からも明らかなように、不安心理は準災害時ともいえる消費者行動となって表面化した。このような消
費者を、最前線で受け止めざるを得ないスーパーマーケットなど小売業の負担は大きく、企業単位での対応には限界がある。この“はざま”における業界と行政との支援・連携の在り方について、今後議論が進むことを期待したい。
25 年8 月には内閣府によりガイドラインが改訂されるなど臨時情報を正確に理解し、冷静な対応を促すための取り組みが各所で進められている。その一方で、SNS が情報収集手段として普及するなか、消費者行動を適切に誘導するだけでは、十分な解決策とはいえない。今回得た教訓は、日頃から発表後と平時との間に生じる消費者行動のギャップを縮小することの重要性である。現在でも行政から、ローリングストックなど、適切な備蓄行動が推奨されているが、もう一段踏み込んで、例えば防災の日がある9 月を「備蓄品購入月間」として、行政が購入費用の一部を補助するなど、具体的な行動を促す施策を実施するタイミングに来ているのではないだろうか。