災害の事前予防と災害情報

特集:災害の事前予防ー荒川放水路通水100年、計画運休10年、予防的通行止め1年


センター長
関谷直也
2024年12月1日

 災害対策、防災対応といえば、直後の情報、避難、災害対策本部運営、避難所運営、罹災証明、ボランティア、生活再建、復興という言葉を連想する。どうも事後対策ばかりに目が向いているように思う。そこでは災害がすでに発生しているし、その大変な状況をなんとかしなければならないということが明白であり、見えやすい。
 だが本質的に災害対策、防災対応としてもっとも重要なことは事前対策であり、災害の予防である。自然現象として地震、豪雨、河川氾濫、大雪が起こっても人が亡くならないことであり、物理的な被害が起こらないことである。
 地震であれば「耐震」であり、河川であればハード的な対策としてはダム、堤防整備、河川改修、放水路構築という「治水対策」、ソフト的な対策としてはダムの放流である。交通網も鉄道ならば「計画運休」、道路ならば「予防的通行止め」である。台風や大雪で鉄道が急に運休になれば駅にいる人も、車内にいる人も非常に困る。大雪になれば渋滞、立ち往生が発生し、除雪もできなくなり、その渋滞は簡単に解消できない。
 これら災害の事前予防や災害情報など事前の防災対策は共通する特徴がある。
 第一に、当初は反対や批判が多いことである。ハード対策にしろ、ソフト対策にしろ、これらが機能するならば、被害を防ぐことができ、混乱を防ぐことができる。だが、いずれも人為的な改良や人為的な操作のため、導入期や社会に定着するまでは、反対や批判がおおい。
 第二に、当たり前になると、今度は誰も意識しなくなることである。今年、荒川は放水路通水100 周年であるが、以降、放水路や堤防、調整池の整備もあり、過去の多くの豪雨、台風、2019 年東日本台風などでも堤防決壊や氾濫は一度もない。本来はこの放水路がなかった場合には大きな被害が出ているにも関わらず、この放水路が功を奏していること、効果があったということはほぼ意識されない。というよりは考えもしないほど当たり前のものとなっている。
 これは災害情報全般にも共通する。緊急地震速報や火山に関する情報、予警報などの気象情報、河川情報、防災気象情報、避難指示や緊急安全確保、呼びかけなど、様々な情報は人に避難や防災対応を促すものとしてつくられ、それらの精度を用いて呼びかけられるが、その結果として、情報が功を奏したかどうかを検証することは極めて難しい。
 第三に、特にソフト対策に関しては、定着するまで時間がかかることである。計画運休の導入から10 年が経過し、当初は批判があったが計画運休の概念は定着しつつある。先にあげた様々な情報も少しずつ定着する。そして、こういったものは定着すると、もはやその防災効果というものは誰も考えなくなる。
 予防的通行止めの導入からから1年である。まだ批判はある。
 話は変わるが南海トラフ地震臨時情報は、南海トラフ地震臨時情報(調査中)が2回出て、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が1 回出ただけである。南海トラフ地震臨時情報による経済被害や経済的な補填をなどといった批判もある。だが台風予測が外れても、豪雨の予測が外れても、経済被害や経済的補填などという声は出てこない。ようは批判が出てくるのは、これら事前の防災対策や災害情報が定着していない証左なのである。定着までにはまだまだ時間がかかる。こういった情報は修正を加え
ながら、粘り強く育てていくことが必要だ。
 災害の事前予防や災害情報など事前の防災対策は、失敗すれば批判されるが成功しても誰からも感謝されない、完成形としては社会をまもりつつも、もう意識されなくなる。
 功を奏するころには誰にも感謝されない。
 常に日陰の存在なのかもしれない。