CIDIR設立の経緯の振り返りと新センター長としての抱負

特集:2020 11年目以降のCIDIRに向けて -CIDIR2.0-

センター長 教授 目黒公郎
2020年6月1日

 設立11年目以降の活動を語る上で、まず設立経緯の概要に触れておく。
 2006年4月に、「災害情報学」の草分けとして、政府や民間企業の防災対策に貢献された廣井脩教授がお亡くなりになり、生前に収集された膨大な災害関連資料が残された。一方で、阪神・淡路大震災以後、「安全・安心」への社会的要請と復興を進める上で、防災に関わる情報と災害時の人々の認知能力や心理、災害観等を理解することの重要性や、これらの課題に取り組む上での理工学と社会科学の知の統合の必要性に対する認識が高まっていた。
 このような状況を背景に、東京大学において防災情報研究を担ってきた地震研究所(地震発生メカニズムに関する地震・火山学)と生産技術研究所(都市基盤の防災工学)、情報学環(災害情報伝達の社会情報学)が本格的に連携する研究センター構想が持ち上がった。総合大学の特性を生かした文理融合型の研究センターとして、防災情報の研究を介して社会貢献を目指す本センターは国際的にも独創的で、東京大学が防災先進国日本の代表として世界をリードする好例になると考えた。そして、田中淳先生を東洋大学からお招きし、2008年4月に総合防災情報研究センター(CIDIR)が情報学環内に正式に設立された。
 CIDIRは、情報学環、地震研究所、生産技術研究所の3部局の連携関係を強化・発展させ、「情報」を核に、学内に分散する防災研究拠点を連携し、物理現象としての被害のみならず、社会現象としての復旧・復興期までを含めた災害の全体像を把握する研究、想定被害額を半減させる総合的防災対策の立案と実施法、災害情報マネジメント、防災情報教育プログラムの開発と社会連携、防災制度の設計と運用に関わる研究、首都直下地震災害の全体像の把握、大学SCM(Service Continuity Management)モデルの開発等に焦点を当てた研究と教育を、長期的な視野に立って行う研究センターである。     
 CIDIRへは、地震研究所と生産技術研究所から流動教員を配置すること、センターの運営・人事、その他の重要事項は3部局が対等に参画する運営委員会で決定すること、情報学環は大学院学際情報学府の教育課程に総合防災情報の専門家を養成するプログラムを整備することなどの基本事項が合意され、それぞれの部局でも承認された。また、本来、センターの運営には、「人」と「もの」と「金」が必要となるが、CIDIRの設立に際しては、「人」の確保を最優先し、特別な「もの」や「金」は請求しない。有能な人材を適切な人数確保することで、産官学の連携研究や競争的資金の調達等により、活動に必要となる「もの」と「金」は独自に調達すると宣言した。
 私はこの基本構想づくりを担ったことから、センター設立と同時に生産技術委研究所からの運営委員になり、2010年4月には総長戦略ポストを得て、CIDIRのメンバーに加わった。以来、今日に至るまで、生産技術研究所の都市基盤安全工学研究センターと情報学環のCIDIRの教員として、二足の草鞋で、研究と教育活動を行ってきたが、2020年3月末に田中先生が東京大学を定年退官されたことから、後任としてCIDIRセンター長を拝命することになった。
 CIDIRは設立以来、田中センター長のリーダーシップの下、多くの関係者のご理解とご協力を得て、設立目的を達成するために努力し、成果を挙げてきた。しかし、すべての目的が順調に達成されてきたわけではない。今後は、これまでの実績を踏まえ、学内の研究資源をより強く連携した仕組みづくりを進めるとともに、取り組みが遅れている課題の達成に向けて努力していく予定である。これまでCIDIRの活動をご支援いただいた学内外の多くの皆様に、心から感謝の意を表するとともに、今後も変わらぬご指導とご鞭撻を深くお願いいたします。