平成30年7月豪雨における住民の対応

特集:2018年度の災害を振り返って

田中淳
2019年3月1日

 7月5日から、西日本を中心に広い範囲で、48時間降雨量が記録を更新する大雨をもたらした。その結果、土砂災害や河川の氾濫が各地で発生し、死者237名という大きな被害者が発生し、8名が行方不明のままとなっている(内閣府2019年1月9日17時現在)。
 気象庁は、災害発生前の7月5日に臨時記者会見を開き「非常に激しい雨が断続的に数日間降り続き、記録的な大雨となる恐れがあります」と伝え、翌6日には「大雨特別警報を発表する可能性があります」と早め早めの避難を呼びかけた。この記者会見を受け、テレビ各社も「異例の会見」、「大雨特別警報の可能性」の見出しで厳重な警戒を呼びかけた。その後、実際に1府10県に特別警報が発表された。加えて、避難勧告が178市町村で、避難指示(緊急)が109市町村で発出された(消防庁調べ。7月7日11:30時点)。
 しかし、結果的には死者・行方不明者299人を出した1982年の長崎豪雨以来の大惨事となった。長崎豪雨の発生を受けて記録的短時間大雨情報が発表されるようになり、その後も事前のハザードマップの作成・配布や気象予警報・水位情報の発表、避難勧告等の発出がなされていたにも関わらず多くの犠牲を生んだことは、災害情報を研究している一人としてあまりに重い現実だった。
 それでは住民の対応行動の実際はどのようなものだったのだろうか。以下、筆者が監修として関わった(株)サーベイリサーチ・センターの調査に基づき見てみることにしたい。調査は、広島県三原市に在住の20歳以上の男女1,200人を無作為に抽出し、災害発生から2ヶ月後の9月上旬に実施され、回収数557票、回収率46.4%だった。三原市では土砂災害と沼田川水系の氾濫による被害を受けたが、ここでは河川氾濫の被害が大きかった本郷に絞って結果を紹介する。本郷地区は配布数220票に対して、回収数105票、回収率47.7%だった。
 避難の状況は本郷地区で見ると、「自宅や職場などから他の場所に避難した」人が22.9%、「自宅や職場などの2階など高いところに上がった」人が15.2%と、何らかの避難行動をとった人は合わせて31.8%だった。この避難率を「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」策定の契機となった2004年の3水害時の結果と比べると、3事例中最も避難率が高かった富岡市では自宅を離れて他の場所に水平避難した人が25.1%、2階以上に上る垂直避難をした人は39.6%、低かった三条市ではそれぞれ16.0%と37.4%となっている。今回の三原調査の結果は、水平避難率は富岡市の結果より低く、三条市の結果より高いこと、また両調査と比べて垂直避難率は低いという結果となる。
 垂直避難率が低い点については、ⅰ)氾濫発生情報よりも早く避難を開始した人が59.4%と多く、氾濫発生情報以後に避難を始めた人は16.2%と少なかったため、垂直避難を迫られた人は少なかった。ⅱ)今回の調査は地域全体から無作為抽出しており、結果的に浸水せず垂直避難の必要も無かった人が含まれている、という2点が考えられる。ちなみに、今回の回答者から浸水しなかった68名を除いた避難率を見ると水平避難28.1%、垂直避難31.3%となる。
 つまり、今回の三原市本郷地区の避難率は決して低くは無かったと言えよう。むしろ、床下以上では2階に上る垂直避難が多くなっている点に課題をみることができる。「三原市総合防災ハザードマップ」を確認したことがあった回答した人は34.3%にとどまっていたことと合わせる、自宅周辺の危険性の認知を高めていかないと、垂直避難では命を守れない、そもそも垂直避難が体力的あるいは時間的にできない層を生み出し続けることになる。

図1 実際の被害毎の避難率