newsletter33号テキスト4

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

cidir_logo2012.jpgcidir_logo2012.jpgcidir_2012gmanu00.jpgcidir_2012gmanu01.jpgcidir_2012gmanu01.jpgcidir_2012gmanu02.jpgcidir_2012gmanu02.jpgcidir_2012gmanu03.jpgcidir_2012gmanu03.jpgcidir_2012gmanu04.jpgcidir_2012gmanu04.jpg

HOME刊行物のご案内nl32テキスト版p.04

newslettertitle.jpg

第33号(2016.09.01)

特集:関東・東北豪雨から1年

浸水域における地場産業の再開状況について

  2015年9月10日の鬼怒川の堤防決壊から約1年が経ち、常総市三坂町の決壊箇所では堤防の本格復旧工事が完了している。新堤防の延長は約200mであり、従来の高さより最大1.4mの嵩上げが行われた。越水した若宮戸はまだ堤防工事中である。鬼怒川下流域では、国土交通省の鬼怒川緊急対策プロジェクトにより、2020年度までに集中的に堤防整備や避難体制の改善が行われる予定である。
 新堤防付近の石下地区の商店街に目を向けてみると、営業している店舗の傍ら、被災後にシャッターを閉めたままの店舗も散見される。広域に及んだ浸水は、地域産業に深刻な影響を与え、水害後の2015年10月27日に常総市は中小企業被害に関する局地激甚災害(局激)の指定を受けた。常総市商工会に所属する事業所は約1,700社であるが,鬼怒川の左岸側に立地する約1,000社のうち、約600社が水害被害を受けた。商工会の調べによれば、中小企業関係の再調達価格ベースの被害額は12月3日時点で183.7億円にのぼった。
  石下地区は,常総市を中心とする伝統織物である「いしげ結城紬」の生産地である。茨城県結城郡織物協同組合に加盟する21社のうち、13社が浸水被害にあった。商工会へのヒアリングによれば、地域の事業所には、①大量生産型の事業所は既に国際競争により淘汰されているため、付加価値の高い製品を造る事業所が多い、②特注生産の老朽化した機械を使っている事業所が多く、機械の交換・修理が困難である、③事業所関係者が高齢化しているなどの特徴があるという。「いしげ結城紬」の織物工場は、付加価値の高い製品を造る事業所の代表例だろう。約1mの浸水により織機のモーターが故障したが、40年以上も前の機械で部品調達が難しく、同業者から部品を分けてもらって操業再開した事例が見られた。このような同業者とのつながりは、災害復旧におけるリダンダンシー(冗長性)の確保につながっており、早期の事業再開を支援する要因になったと考えられる。
  石下地区には、低地で栽培した米を使った団子などの食品生産や酒造りなどの地場産業も見られる。事業再開にあたっては、再開準備に必要なマンパワー・物品・資金をいかに早く得られるかが重要となる。本地区の酒造会社は、瓶詰用の機械やタンク、出荷前の日本酒等の商品在庫が被害を受けたが、県内各所の酒造会社から応援が駆けつけ、タンクの清掃等を支援した。同業者とのつながりは、再開に際して専門的な作業が必要な場合にも役立った。浄水場の浸水により市内の断水が長期化したため、同業者や取引先等からの高圧洗浄機の支援は特に役立った。また、泥かきなどの清掃作業に関しては、ボランティアに来てもらい大変助かったとの声も多かった。資金面に関しては、茨城県が、中小企業の事業再開に必要な経費への最大50万円の補助金制度や低利子融資制度を創設した。一方、東日本大震災後に運用されたグループ化補助金の仕組みを望む声があったが、実現していない。農業と比べて商工業への直接的な金銭的支援が少ないと感じている事業主は多いようである。
 石下地区で最も大きな商業施設であったアピタ石下店は、浸水当日に買い物客ら約150人が孤立し注目を浴びたが、その後、復旧投資が困難となり12月6日に閉店した。商工会によれば、2015年度末までに洪水に起因して廃業したと考えられる事業所は40社に上り、さらに増加しつつあるという。被災前から融資を受けている場合、被災後の機械の修理等で新たに融資を受けると二重債務を負うことになり、特に高齢者の事業主の場合には再開は著しく困難である。自宅併設型の事業所の場合も、自宅と事業所の双方の補修費用が必要となり、再開には困難が伴う。 
 常総市南部に位置する水海道地区では、浸水深さが2mを超え、浸水日数が1週間以上に及んだ事業所もある。本紙面では紹介しきれないが、悪臭や衛生面での困難に直面した事業所も多かった。
 筆者が所属する土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センターでは、常総市内の事業所を対象としたインタビュー調査を実施している。中でも印象的なのは、「洪水ハザードマップは見たことがない」「浸水するとは思っていなかったので、水害保険の加入や機械等のかさ上げなどの対策は全く行っていなかった」という声が非常に多い点である。住民だけでなく、事業主にも水害リスクを正しく認識してもらい、事前対策を実施してもらうことの重要性を痛感している。

画像

三坂町の新堤防の状況

国立研究開発法人 土木研究所 主任研究員 大原美保