newsletter33号テキスト1

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

cidir_logo2012.jpgcidir_logo2012.jpgcidir_2012gmanu00.jpgcidir_2012gmanu01.jpgcidir_2012gmanu01.jpgcidir_2012gmanu02.jpgcidir_2012gmanu02.jpgcidir_2012gmanu03.jpgcidir_2012gmanu03.jpgcidir_2012gmanu04.jpgcidir_2012gmanu04.jpg

HOME刊行物のご案内 nl32テキスト版p.01

newslettertitle.jpg

第33号(2016.09.01)

特集:関東・東北豪雨から1年

河川氾濫からの避難を促す情報

 河川はん濫が発生するまでには、降雨や水位上昇など様々な現象が先行し、大雨警報や洪水予報など多くの災害情報が発表される。しかし、この河川はん濫という現象に至るプロセスは決して単純ではない。たとえば、大きな河川では、水位上昇は自分が今いる場所で降っている雨よりも上流部の降雨量が支配的であるが、流域の狭い中小河川では今いる場所の雨に規定される。大河川では、普段なじみのない上流部にある水位観測所の水位情報が重要となる。今回の水害で破堤した常総市三坂地点は、筑西市川島の水位観測所の受け持ち区間となる。住民が適切な情報を得て、自ら判断を下していくには、破堤・決壊に至るまで進展していくこのように複雑な災害過程を理解していることが求められる。
 しかし、その理解は容易なことではない。それでは、住民は、時間とともに進展していく災害過程をどの程度正しく理解しているのだろうか。この問に答えることを目的に、CIDIRでは、科学研究費特別研究促進費「平成27年9月関東・東北豪雨による災害の総合研究」(研究代表者:京都大学防災研究所田中茂信)の一環として、鬼怒川流域の常総市・結城市・下妻市・守谷市・筑西市・つくばみらい市・八千代町の7市町在住者300名から回答を得た。回答者の基本属性は、男性58.7%、女性41.3%、20代6.7%、30代25.3%、40代35.7%、50代21.0%、60代以上11.3%であり、また全体の86.3%が今回の水害では被害を受けていないと回答している。
 その回答の中から、河川氾濫被害の進展過程の理解に関する調査結果を紹介する。まず、図の一番上の棒グラフは、破堤・決壊により家が流出するなど重大な被害に結びつくことへの理解度である。40%の回答者が良く知っているとしており、やや知っていると合わせて4分の3が知っている回答している。なお、災害発生直後の調査であり、認知率が高くなる回答傾向が予想されることから、「あなたの周囲の人はどれくらい知っていると思いますか」という間接質問の形式を取った結果である。一般に、他者の知識や行動を推測させた方が、自分自身の知識や行動を直接尋ねられるよりも、規範への同調圧力や知識量を高く見せる回答傾向の影響を受けにくいとされるためである。

画像

図 河川はん濫の進展過程に関する理解

 ここで重要な点は、この回答率と比べて「越流・越水すると堤防が決壊する恐れがある」や「鬼怒川の水位は上流の降雨量で決まる」といった知識の方が25%程度と低い点である。堤防の近傍にいる人は、破堤してから避難していては間に合わない。そのため、「上流の降雨量→越流・越水→破堤・決壊」という災害過程の進展が理解されている必要があるが、結果は必ずしもそうはなっていないことを示唆している。
 さらに、利根川など大きな河川の水位が上昇すると、それらの大河川に流れ込んでいる支流は排水できずに先に溢れることも多い。今回の関東・東北豪雨でも八軒堀川が排水ポンプを停止したあとに溢れている。大河川が危険になって避難しようとした時には、すでに支流が溢れて避難できない状況になっているという危険性がある。しかし、この関係性をよく知っていると回答した人は、16.3%に留まる。
 これらの結果は、災害の切迫性を伝えるには、個々の情報を分かりやすくするだけでは不十分であり、刻々と進展していく災害過程の予想と合わせた情報提供が不可欠だということを示している。

田中淳