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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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第32号(2016.06.01)

特集:熊本地震

「2016年熊本地震」の災害対応を見て

 「2016年熊本地震」の発災時からの災害対応を見ると、関係者の最大限の努力とは別に様々な課題に気付く。九州全体としての大規模災害に対する危機感の低さや準備不足を原因とする初動対応の遅れ、国~県~市町村の連携の不備、市庁舎や病院、学校体育館など、災害発生時に災害対応の中核になるべき施設の耐震性や有事対応の準備不足、外部からの支援者を有効活用するための受援力不足などである。
 現在、復旧・復興の途上であるので、ここでは個別の課題に関する指摘は避け、今後の我が国全体の防災対策や対応力の向上のために、私がぜひ取り組むべきと感じる点を述べる。
 昭和の末期に3,350ほどあった市町村が、平成の大合併によって1,720ほどに減った。約1/2になったので面積はかなり大きくなったが、人口はどうかと言うと、人口10万人以下の市町村の割合が全体の85%、同様に3万人以下が53%、1万人以下が26%である。合併によって職員数も削減され、人口当たりの職員数は合併前よりも減った。その結果として、現在、市町村の防災や危機管理関連部局の職員数は、人口10万人で10人前後、3万人では3~5人程度、1万人以下であれば兼務の職員が1,2人である。
 ところで、地震や台風、大雨(これらをハザードと呼ぶ)は、基礎自治体の空間的な広がりや行政境界とは無関係に起こる。合併によって対応する側の資源は減ったが、ハザードの頻度や規模は合併前後で変化しない。災害対応における条件を、自治体の人口の大小を基準として比較すると、人口の少ない自治体では被災人口は少なくなるが、人口密度は低いが広く分布していることが多いので、被災人口の割に分布は広くなる。インフラの被害や土砂災害、森林や農地を含めた被災面積は人口が少なくても広範に及ぶことも多い。よって、少子高齢人口減少社会の我が国では、少人口自治体の災害対応は、今後必然的により厳しくなっていく。
 このような状況下で、私が重要と考えるポイントを、将来の被害抑止の視点と将来の災害対応力強化の視点から述べる。
 まずは、将来の被害抑止の視点である。増田寛也氏によると、今後地方の市町村は人口がどんどん減り、各地で限界集落が発生し消滅の危機に直面するという。このような状況下では、従来の集落の数や分布をそのままに人口の変化を自然に任せるのではなく、各地域の災害危険度を評価し、危険度の高い地域に住む人々を危険度の低い地域にうまく誘導することが大切だ。この対策は人口減少社会で効果的に実施できるし、これによって移動して入ってくる人々もそれを迎い入れる人々もハッピーな環境整備が可能になる。この時、重要なのは、大きな財政負担は行政も市民も難しいので、市民のライフプランの中で、例えば引っ越しや住宅の建て替えのようなタイミングに、災害危険度の低い地域で人口減少によって不要となるスペースに移動してもらうこと。こうすることで、特別な対策費や予算措置がなくても、自治体全体としての将来の災害リスクも被害量も大幅に減り、災害対応の環境が大幅に改善される。 
 次は災害対応力の強化である。私の結論は、災害対策基本法を改正し、災害対応の責任を市町村から都道府県に変えた新しい体制を整備すべきだということ。現在も災害救助法の主体は都道府県知事である。
 適切な災害対応には実経験が重要だが、災害のデパートと言われる我が国であっても、時期やエリアを限定すれば頻度が低いので、各市町村の防災部局の職員が実経験を積むことは難しい。ゆえに市町村の大規模災害対応は「いつも初めて」の経験になり、「何をすればいいのかわからない」状況から始まる。現在、そして今後の市町村を取り巻く環境を前提にすれば、1,720の市町村に災害対応の教訓や経験を個別に蓄積・遺伝させることは難しい。都道府県に災害対応のノウハウや教訓を蓄積・遺伝させ、被災市町村の災害対応のマネージメント機能を持って出向くシステムを構築すべきだ。事前の防災対策は、時間的な余裕もあるので地域を良く知る市町村が主体となって推進できるし、そうあるべきだ。しかし、人口の少ない自治体では、初めての災害対応で、しかも外部支援職員などを含め、日頃管理している職員の数十倍もの人間を適切に管理することが求められるが、これは容易ではない。この状況を改善する解決策がここで提案する方法と、専門性の高いボランティア(プロボノ)の有効活用である。一般ボランティアとは分けて、彼らの能力を最大限発揮できる環境を整備することで、行政が取り組むべき災害対応業務を大幅に軽減できる。 

目黒 公郎