newsletter38号テキスト1

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:災害時の通信

通信と災害における諸課題


 「通信」という語は、「おとずれ」あるいは「たより」を示す、唐代からの歴史ある言葉だが(晋書、王澄伝=大漢語林)、現代では「郵便・電信・電話・パソコンなどによって意思や情報を通ずること」を意味している(広辞苑第6版)。その上位概念には運輸を含む「交通」があり、下位概念には郵便を除く「電気通信」がある。電気通信には放送も含まれるが、ここでは放送を含まない電気通信について述べる。
 災害時に通信でやり取りされる情報の主体と主な内容を整理すると図1のようになる。すなわち個人間では安否情報やローカルな情報がやりとりされ、個人から防災組織には救援要請、被害情報などが発信される。また近年では個人からGPSの位置情報等がビッグデータとして収集されている。防災組織では震度など各種観測データが集められ、被害情報や避難所などへの救援のための情報が共有される。一方、防災機関からは、警報や避難勧告といった避難情報、生活情報、広報等が住民に伝えられる。
 これらを伝達する通信メディアとしては、防災無線、電話、携帯電話、インターネット等があるが、ここ10年ほどの間に大きな変化を遂げてきた。本論ではその論点・課題を5つ指摘しておきたい。
 第1に、通信が情報処理と結びついてICT(Information and Communication Technology)となり、新たな防災情報が次々と生み出されてきたことがある。2007年に始まった緊急地震速報はその1例であろう。ここでは緊急地震速報対応の地震計情報が、IP-VPN網(EarthLAN)を通じて気象庁に集められ、高速処理され、警報が出され、専用線やIP-VPNで各種事業者に伝わり、携帯などを通じてユーザーに伝えられる。地震以外にも気象や河川や土砂災害に関する新たな情報が生み出されてきた。また位置情報や画像情報を集めビッグデータとして活用する動きも進んでいる。これらの情報の活用を実用化し、評価することは1つの課題である。
 第2に、新たな情報やメディアを、社会や人々がどう生かしていくのか、という課題もある。活用すれば有効なはずなのに十分に活かしきれていない通信メディアや情報がいろいろある。たとえば、災害時優先電話、広域災害救急医療情報システム、災害用伝言ダイヤル、市町村からの緊急速報メール、衛星携帯電話、気象庁の各種情報(土砂災害警戒判定メッシュ情報、流域雨量指数など)である。
 第3に、災害時に通信が込み合ってつながらない、という輻輳の問題がある。この現象は、家庭に電話が普及し始めた1960年のチリ地震津波の時から発生し、その後も災害のたびに繰り返されてきた。阪神・淡路大震災を機に1998年から始まった災害用伝言ダイヤルは、この輻輳への対策であった。その後2004年から携帯電話でパケット通信が通話と別に制御されるようになり、携帯IP通信がつながりやすくなった。そのせいか熊本地震の時には輻輳はあまり問題にならなかった。しかし今後も音声通話およびサーバなどIP網における輻輳には注目していく必要があるだろう。
 第4に電源の問題がある。電気通信である以上、どのようなものであれ、電気がなくては通信できない。電源喪失で通信不能という事態は、常に発生している根深い問題である。固定系インターネットは(たとえ屋内部分が無線LANだとしても)停電時には使えなくなるし、固定電話もほぼ使えない。銅線につながった昔ながらの電話は、電話局からの給電があったが、それも今後IP電話化され、消滅する。携帯電話は、災害直後は使えるが、基地局のバッテリーが切れると数時間後に使えなくなる危険がある。
 第5に通信の多様性を確保する課題がある。近年、災害時に携帯電話が果たす役割が大きくなり、たとえば安否確認も、携帯の通話・メール・SNS(特にLINE)でなされることが多くなった。熊本地震時には安否確認をした手段として61.0%の人が携帯の通話、40.0%が携帯メール、34.0%がLINEを挙げている(筆者調査)。あるいは携帯の緊急速報メールは、緊急地震速報・自治体の避難情報(2007年~)からはじまって、津波警報(2012年~)、洪水予報指定河川の氾濫危険情報及び氾濫発生情報(2016年~)と、伝達内容を広げてきた。防災組織内でも、被害情報の共有に携帯電話が使われるし、避難所運営のための情報共有にLINEが使われることもある(益城町・西原村など)。あるいは情報収集に便利なツイッターや天気アプリなどの各種アプリも携帯であるし、各種ビッグデータも携帯電話網で収集されている。
 しかし災害時の通信が携帯電話網だけに依存するのは問題であろう。実際、東日本大震災時には14,186局、熊本地震時には344局、2017年の九州北部豪雨時には120局の携帯基地局が停波している(いずれも大手3社合計)。停波の原因は基地局のバッテリー枯渇が多いが(東日本大震災時は停波局の85.3%が電源枯渇による)、基地局から先をつなぐ光ケーブルが津波や土砂崩れで切断される被害も少なくない。主要基地局のバッテリー強化、伝送路の複線化、広い範囲をカバーする基地局の整備などの対策が進んでいるが、完ぺきとはいえない。
 そこで重要になるのは、比較的、頑健な別系統の通信手段も合わせて備えることである。たとえば2017年の九州北部豪雨時、被災地の東峰村役場では、回線の途絶によって固定電話も携帯電話もつながらくなってしまった。しかし福岡県庁とを結ぶ都道府県防災無線が使えたために、完全孤立を防ぐことができた。逆に熊本地震時には、益城町や西原村の地震計は固定電話回線だけで接続されていたために、本震の震度7の情報を4日間も外部に送ることができなかった。
 別系統という場合、通信の層(レイヤ)に注意する必要がある。工学的にはより細かく分けられるが、ここでは下から物理層、ネットワーク層、アプリケーション層、コンテンツ層の4つを措定する。たとえば自治体の防災無線であればこの4層はいずれも自治体が管理している。しかし携帯電話の場合では複雑である。たとえばLINEで連絡をする場合、メッセージはコンテンツ層、LINEのアプリやサービスはアプリケーション層である。発信された後は携帯やインターネットのネットワーク層が使われる。物理層としては携帯端末、携帯基地局、光ケーブル、交換機、ISPサーバ、インターネット・バックボーン回線、LINEサーバ、アップル等OSのプッシュ通知サーバなどが使われる。複数経路で通信を確保しようとする場合、できるだけ下の層まで別のものを使うことが望ましい。その意味では、防災無線(地上系・衛星系)、携帯電話(音声・パケット)、衛星携帯、WiMAX、MCA無線などは互いに異質なネットワークといえる。災害時に重要な通信は、これらを使って多様性を確保するべきだろう。
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         (東洋大学社会学部 メディアコミュニケーション学科教授 中村 功)