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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:糸魚川大火に何を見る

糸魚川大規模火災が教えたこと


 《忘れてはいけない市街地大火》
 去年の暮れに発生した糸魚川市の火災は、阪神・淡路大震災の地震火災と東日本大震災の津波火災を除いた市街地火災としては、昭和51年の山形県酒田市以来の大火となった。このため多くの消防関係者や火災の専門家は通常の市街地大火は克服できたとみていた。燃えにくい建築材料の普及や都市の不燃化が進んだこと、常備消防の消防力が高まったことなどが理由だ。ところが糸魚川市の火災は、木造の建物が密集した市街地で強い風が吹き、初期の段階に十分な消防力がないなどの悪条件が重なれば、今でも大規模な市街地大火が起きる危険性があることをみせつけた。長く消防や火災の取材をしてきた立場から、糸魚川市の大規模火災が教えることを考えてみたい。
 火災は平成28年12月22日の午前10時20分頃、JR糸魚川駅に近い密集市街地の中の木造2階建てのラーメン店から出火した。店主はコンロに中華鍋をかけ、火をつけたことを忘れて近くの自宅に戻り、約40分後に店に戻って火災を確認した。厨房内には消火器が自主的に設置されていたが、店主は消火器ではなく水道水で初期消火を行った。しかし火の勢いは衰えずに燃え広がった。
 糸魚川消防本部の覚知時刻は10時28分だった。その7分後の10時35分には、ポンプ車やタンク車など4台が現場に到着したのに続いて、糸魚川市消防本部が所有する16台の消防車両が次々に投入された。その後、消防団も消火にあたったが、路地が狭かったり、屋根に火が回ったりして消火活動は困難を極めた。
 その日の天候は曇のち雨、低気圧が発達しながら日本海を東に進んでいたことから強風が継続し、新潟地方気象台は強風注意報を発表していた。強い南風にあおられて火の粉や火のついた板の切れ端などが飛び、火災は町の北側に向かって広がった。発生から1時間ほど経った午前11時半頃には100m以上離れたところまで広がり、3時間後には300メートルほど離れた海の近くまで達した。
 地元の消防力だけでは消火が難しいと判断した糸魚川市消防本部は、12時に近隣の上越市や新潟市などの消防本部に応援を要請し、最終的には県内だけでなく富山県や長野県など合わせて19の消防本部から38台の消防隊が駆けつけ、出火から10時間余り経った午後8時50分にようやく鎮圧状態となった。

《検証すべき視点》
火災の経緯をみると今後の対策がみえてくる。主に消防の観点から考えると

① 一つは消防力の問題だ。火災後に総務省消防庁が全国の733の消防本部に調査したところ、木造密集地に火災を防ぐ特別な計画を作っているところは全体の24%、ポンプ車や防火水槽を優先的に整備しているところは15%にとどまった。最近の消防は火災よりも救急出動が多く、消火の経験やノウハウを伝えることが難しくなっている。近隣の消防本部との協力体制を強めたり、地元に密着した消防団の装備や役割を大火に備える観点から見直しておく必要があると思う。
② 二つめは時代を見据えた火災予防対策だ。避難に時間のかかる高齢者が増え、火災が起きても気づくのが遅れがちな人口減少の時代が始まっている。現在、延べ床面積が150㎡未満の飲食店では、条例を定めている一部の自治体を除いて消火器の設置が義務づけられていないが、150㎡未満の建物で発生したコンロ火災の約80%は飲食店で起きている。地域で早期に火災を感知できる仕組みを作ったり、規模の小さな飲食店でも消火器の設置を義務づけるなどの対策を急ぐ必要がある。
③ 三つめは火災の際の住民の避難を考えることだ。今回は昼間の火災だったことや地域のつながりが強かったこと、きめ細かい避難の呼び掛けがあったことなどから死者はなかった。しかし避難路が火に取り囲まれたり、火災が深夜に起きたり、高齢者などの施設があったりしたら、人的な犠牲者が出ていた可能性があるからだ。

 もとより市街地大火を防ぐには火災に強い町作りが最も重要だ。現在の密集市街地の火災対策は地震対策から考えられているが、通常の市街地大火も視野に入れなくてはいけない。また火災予防に役立つ気象情報のあり方についても検討が必要だ。糸魚川市のような密集市街地は全国に点在しているし今回の強風が特別だったわけでもない。今回の火災は、大規模な市街地火災は今でも全国のどこでも起きる可能性がある警鐘と受けとめなくてはいけないと思う。

(NHK解説委員 山﨑 登)