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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:糸魚川大火に何を見る

糸魚川大規模火災が提起した課題


 このたびの糸魚川市火災は、平常時の都市大火としては40年前の酒田市大火以来の最も大きな規模の火災である。たまたま、大火の定義が建物焼損床面積1万坪(3万3000㎡)であり、糸魚川市大規模火災は消防庁1)によれば焼損床面積が30,412㎡で、定義上、かろうじて大火とはならなかったわけだが、実質上、都市大火が40年ぶりに発生したといってもよい事態であった。今回の火災による最大の教訓は、この現代においても、強風などの不利な条件がそろう場合には、木造密集市街地など延焼危険のある地域では、地震時だけでなく平常時においても市街地大規模火災が起こり得るということである。なかでも留意しなければならない点は、強風とそれによって生じた飛び火の影響により、大規模地震時に起きる同時多発火災と同様の災害条件が平常時にも出現したということである。
 したがって、糸魚川市火災が提起した今後の課題としては、このような事態を避けるために、まず筆頭に、飛び火の発生、飛散、着火メカニズムの解明とその対策検討が喫緊の課題であることを指摘したい。
 次に、市街地延焼火災の局限化のためには、道路の拡幅や沿道の不燃化による延焼遮断帯の構築、木造密集市街地の不燃化・再整備という根本的対策を進めることが本来必要であることを強調しておきたい。ただし、この実現には、予算面でも住民合意形成の面でも、また建設の上でも道のりは遠く、地道な努力と時間が必要となることは言うまでもない。
 消防力に関しては、小規模消防本部の多い現状のもとでは、常備消防のみならず消防団を含めた近隣応援体制のさらなる充実とその迅速な発動システムの整備が求められよう。また、長時間の消防活動に備えて防火水槽などの貯水型消防水利の確保や自然水利からの長距離中継送水システムの整備が課題である。しかしながら、こうした公設消防力の整備だけでは限界があり、木造密集街区での延焼を防ぎ極限化するためには、地域住民による出火防止、初期消火体制の整備も必要となる。たとえば、様々な耐震装置付き機器の使用、マイコンメータや感震ブレーカの設置による出火防止の努力、消火器や消火水の備えなどである。また、地域では、消防団、自主防災組織等の活性化、地震時にも使える消防水利の確保と住民が使える可搬式ポンプやスタンドパイプのような消火器具の整備と習熟などが地域防災力向上にとって重要である。
ところで、糸魚川市が大火になる特殊性を備えていたかといえば、そのようなことはない。糸魚川市の駅前にあったような古い木造の密集街区は全国の至るところにあるし、京都の町屋をはじめ伝統的な古い街並みを観光のポイントにしている場合も多い。したがって、こうした地区はもともと延焼危険の面からみると脆弱であることをあらためて認識して、仮に火元での初期消火に失敗しても、それが市街地火災に拡がらないような対策、工夫を行う必要がある。
 このような、伝統的な家屋などの場合で建物自体の不燃化は避けたい場合や不燃化事業がなかなか進まない地区では、改修工事などの際に隣接住戸との戸境壁に不燃ボードを入れるなどして1住戸で火災を止めるような取り組みが有効である。それが無理な場合でも、せめて隣接する戸境部分には開口部を設けない、仮に設けた場合でも開口部相互の位置をずらす、また、ガラス窓には網入りガラスを入れるなどの工夫を行うべきである。消防隊による消火が難しい箇所は建築的に防護するということが肝心である。
 こうした工夫を推進する補助事業として注目に値するのが、東京都墨田区の「防火・耐震化改修促進事業」2)である。これは、木造密集地域において建替えが進まない老朽木造建築物の防火・耐震化改修を行う際に、その工事費の一部を助成するものである。改修の内容としては、外壁や内壁に不燃材を貼りつけたり、開口部に網入りガラスや防火シャッターを設置したり、あるいはまた軒裏の防火性を高める防火改修を行って、隣棟間の延焼防止を図ることを目的としたものである。不燃建築物に建替えることに比べて、ずっと費用と期間を抑えることができるので、手の届きやすい補助制度だといえるだろう。
 木造密集街区の防災対策の推進には即効薬も特効薬もなく、上記に示したような多角的な対策の「合わせ技」で、一歩ずつ火災被害リスク軽減を進めていく以外に道はないことを最後に述べておきたい。
【参考文献】
1)消防庁:「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会」資料一覧
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h28/itoigawa_daikibokasai/index.html ,2017年4月7日現在
2)墨田区:墨田区のお知らせ No.1685,防火・耐震化改修促進助成事業,2012年9月1日.
https://www.city.sumida.lg.jp/kuhou/backnum/120901/pdf/all.pdf

(東京理科大学大学院 国際火災科学研究科教授 関澤 愛)