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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:糸魚川大火に何を見る

リスクマネージメントとクライシスマネージメント


 糸魚川大火は、わが国の都市における危機管理あるいは事前減災のあり方に、大きな警告を鳴らすものである。糸魚川だけの問題あるいは市街地大火だけの問題と片付けてしまってはならない。地球温暖化の時代、少子高齢化の時代、災害激甚化の時代の今、わが国のどこでも起こりうる「不測の災害」あるいは「油断の災害」なのである。
「想定内の中の想定外の災害」といってもよい。私たちが、賢明かつ冷厳であれば予見できた「想定内のリスク」であったにもかかわらず、思い込みと油断と偏見によって「想定外のリスク」にしてしまった。ということで、再び想定外を許さないためにも、油断や偏見を繰り返さないためにも、糸魚川大火から危機管理のあり方を学ばなければならない。 
ここでは、リスクマネージメントとクライシスマネージメントという視点から、糸魚川大火から学ぶことにしたい。リスクマネージメントとは正しくヤマを掛けて備えること、クライシスマネージメントとはヤマが外れても適応することである。正しく恐れて正しく備えることと、正しく驚いて正しく対処することが、求められている。
そこでまず、リスクマネージメントの側面から糸魚川大火を見よう。正しく恐れてということでは、木造密集市街地あるいは過疎脆弱化社会のリスクを過小に見積もっていたことが問われる。老朽木造が密集する市街地で、手つかずの火災を許せば、それが大火につながるのは自明のことである。
手つかずの火災は、消防の消火能力を超えた事態が起きると発生する。大規模爆発などで初期消火不能の事態が発生した場合、同時多発などで消火対応不能の事態が発生した場合に起きる。同時多発は、強風時の飛火だけでなく大地震時の揺れによってももたらされる。こうしたリスクを、科学的かつ達観的に予測する力を持たなければならない。
予測することは、正しく備えることにもつながる。私たちの科学技術は、まだまだ未熟である。大火のリスクを十分予測できているかというとそうではない。この点では、もっと謙虚になって自然やリスクに向き合わないといけない、と思う。飛火や火災旋風大火も含めて延焼危険を的確に予測できる技術を磨かないといけないし、その普及をはかって消防本部などのリスクマネージメントの熟達に努めないといけない。
この正しく恐れるということで、忘れてならないことがある。それは、寺田寅彦の言葉にもある「災害の進化」ということである。私は、40年も発生していなかった大火が起きた背景には、この間の大きな社会の変容があると考えている。社会の変容が、意識の変化を含む新たなリスクを生み出し、災害の進化を生んだのである。この進化に向き合うことを、糸魚川大火は求めている。
この社会の変容あるいは災害の進化では、一方での過疎過密化の進行、他方での少子高齢化の進行が、地域防災力の減退や地方都市の弱体化などのリスクを生んでいる。火災の発見が遅れたことや飛火火災の予防ができなかった背景には、人口減少やコミュニティ衰退が関わっている。高齢化社会という視点から、糸魚川大火を見直す必要もあろう。
正しく備えることについても、大切なことをコメントしておきたい。それは、事前にリスクの解消をはからなければならない、ということである。消防力という薬に頼る前に、燃えにくい市街地という体質改善に努めなければならない。市街地の不燃化や難燃化を怠ってきたわが国の都市防災の誤りが厳しく問われている。
紙面もなくなったが、最後にクライシスマネージメントにも言及しておきたい。ヤマが外れた時に正しく適応するには、不測の問題が出ても応えられるように、いかなる事態が生きても対応できる基礎力を磨いておくことが、何よりも求められる。大火に対する警防計画をつくり訓練を積み重ねておくことなどが、それにあたる。不測事態に備えるコマンドシステムの習熟が求められる。
ヤマが外れた場合のもう一つの対処方法は、カンニングをすることである。つまり、戦力補完が欠かせない。内にあってはコミュニティや消防団と連携すること、外に対しては、近接する消防本部や防災関係機関と連携することなど、いかに戦力を補強するかの周到な準備がいる。その補強をスムースにはかるための情報共有や事前協定の仕組みを充実させることが、ここでは問われている。不測の事態には助け合いの文化が欠かせない。   

 (兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科長 室﨑 益輝)