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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:企業の危機管理

危機管理コミュニケーションの要諦(大事なポイント)

  危機管理における重要な二つのキーワード、不祥事の予防局面における「予見力」と対応局面における「初動の重要性」について考えたい。
 検査データや会計の分野などで「偽装」をキーワードとした企業不祥事が相次いでいる。この背景には、「法的には問題ない」「企業内や業界では常識」「利益至上主義」「下請け業者の問題」といった旧来の意識が垣間見られる。加えて近年ではメディア環境も様変わりし、インターネットへのたった一枚の写真の投稿、たった数行の“つぶやき”があっという間に社会に拡散し、企業への大きな批判につながっていく。
一企業において不祥事はそう頻繁には発生しないが、ひとたび起きてその対応や情報開示を誤るとたちまちレピュテーション(良い評判)が毀損し、企業の存続・成長を脅かす。普段から他業界、他社で発生した事案を“自分ゴト化”して自らを省みること、決して“対岸の火事”としないことが大切だ。
 企業は常に「リスク」と隣り合わせで活動している。自らの組織に内在するリスクを根絶することは不可能である。そのリスクが顕在化し、いわば“大火事”になる前に、いかにボヤのうちに始末できるかが普段の危機管理においては欠かせない。専門部署や組織横断的な危機管理委員会などを通じて定期的継続的にリスクを棚卸し、大火事になる可能性(頻度)が高いもの、且つ大火事になった時に経営への影響が大きいリスクから優先的に予防しておくこと、そしてその対処法をマニュアル化しておくことが肝要である。しかしもっと大事なのは、経営層から現場に至るまで全組織レベルでリスクに対する感度をあげて「予見力」を高めておくことである。
 しかしどんなに普段から備えていても、たった一人の「悪意」や「うっかりミス」など思わぬ所から不祥事は発生する。その際、直ちに対応に向けた体勢をとれるかどうか、その初動における“瞬発力”が現代では問われている。逡巡して事態の公表が遅れると、メディアは一斉に「後手後手の対応」と書き立て非難する。
 初動、すなわち「初めの一歩」をしっかりと踏み出すには、素早く正確な第一報がなされることが重要である。そのために新入社員ならずとも組織全体での「報・連・相」の徹底は欠かせない。経営陣が耳を背けたくなるような嫌な報告がきちんと現場から上がってくる仕組みやルール作り、そして意識づけが大切である。
 その報告を起点として対策本部が素早く招集される。ここでの情報収集やそれに基づく判断の一つ一つが会社の命運を左右する、まさに経営判断の場となる。ここで留意すべきは、「先入観」や「被害者意識」、また責任を回避したい意識である。これが、やがて社外への情報開示の場で失言、不誠実な態度となって現れ、起こってしまった不祥事とは別に、不要な批判を浴びることになるのである。
 メディアへの情報開示、とくに記者会見という場は、登壇したスポークスパーソンのお詫びや説明、質疑応答の巧拙よりもむしろ、会見開催までの「準備」の巧拙が問われる世界である。対策本部内で、対応や情報開示の方針についてしっかりと議論がなされ、これに基づいたステートメントや隙のない想定問答集が作成されることが重要である。
 これを受けた登壇者は、カメラのフラッシュの嵐の中で、バーバル(言葉)とノンバーバル(動作や表情)の両面からメディアの厳しい眼に晒される。一番に問われるのは「当事者意識」であり、日本ならではの、儀式ともいえる頭を深く下げてお詫びをするその言葉と動作には大きな注目が集まる。下げた頭の戻りが早かったりすると、心がこもっていないとの印象をもたれてしまう。
やがて始まる質疑応答も、誠実さや忍耐力が試される場となる。挑発的な質問、誘導尋問などをかいくぐり、緊張感を持続する中で片時も忘れてはいけないのは、お詫びをし、説明する相手は、目の前にいる記者ではなくて、その向こう側にいる利害関係者、すなわちお客様や株主、取引先や監督官庁、そして自らの従業員であるということである。
 金融庁と東京証券取引所が取りまとめたコーポレートガバナンス・コードの運用が6月から始まった本年は「企業統治元年」とも呼ばれる。これは上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針とされている。
企業が健全に成長し、組織を持続していくために、自らのリスクをしっかりと予見して予防を怠らない事、また万一何らかの不祥事が発生してしまった場合には、スピード感をもって対処にあたり社会からの信頼を一刻も早く回復することがますます求められる時代となっている。



                        (企業広報戦略研究所 青木浩一)