newsletter29号テキスト5

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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CIDIR Report

2015年ネパール・グルカ地震被害調査速報(その2:特徴的な地震動)

 2015年ネパール・グルカ地震によるカトマンズ盆地内の地震動は、地震の規模や震源深さ、さらにディレクティビティを考慮すると、通常考えられる地震動に比べて著しく弱いものであった。今回は、この地震動について少し説明したい。
 米国地質調査所(USGS)が震央距離約60㎞(断層の広がりを考慮すると最終的には断層の直上)の地点に設置していた地震計が記録した加速度地震記録(図の左側)を少し分析してみた。揺れの継続時間は2分以上、水平方向の最大加速度はNS、EWともに160ガル前後、上限動は約190ガルで、通常よりもかなり値が小さい。しかし速度記録と変位記録が大きい。速度記録は最大速度がEWで107カイン、NSで86カイン、上下で約60カインである。同様に最大変位はEWで117cm、NSで140cm、上下で59cmである。周波数特性としては、短周期成分としてNSに0.5sに(EWはない)ピークがある。また3s以上の長周期成分が多いことから、応答スペクトル解析(減衰は5%と2%で)を行ってみた。
 加速度応答スペクトルはNS成分で、0.5s付近の値が減衰5%で300ガル(減衰2%では600ガル)であり、やはり揺れは強くないことがわかる。しかし長周期成分の速度応答と変位応答スペクトルを見ると驚く。EWで減衰2%のケースで、最大応答速度は周期5s付近で500カイン、4~6sの周期で400カイン以上(5%減衰では周期5s付近で400カイン弱、4~6sの周期で300カイン以上)である。同様にNSでは減衰2%で、周期5s付近で400カイン、4~7sの周期で300カイン以上(5%減衰では周期5s付近で300カイン強、5~6sの周期で300カイン以上)である。さら変位応答スペクトルでは、EWでは減衰2%のケースで、最大応答変位が周期5s付近で400cm、4~7sの周期で300cm以上(5%減衰では、周期5s付近で300cm、4~10sの周期で200cm以上)であり、同様にNSでは減衰2%で、5~7sの周期で300cm以上(5%減衰では周期5s以上で200cm以上)である。
 4s以上の固有周期を有する施設が皆無であったカトマンズ周辺では、長周期地震動による問題は幸いにして発生しなかった。しかし、現在の日本の超高層ビルや長大橋、備蓄タンクなどを考えると、今回の地震動が我が国を襲った場合には、かなりの被害が出てしまう。
 その後、この地震動を正確に再現できる振動台を有する国内のゼネコンの技術研究所に招かれて、その揺れを体験した。起動装置に設置された閉空間内で、この揺れを体験する限りでは、体感震度はせいぜい震度5程度(かそれ以下)である。しかし出入り口についている窓から外の様子を眺めると、自分が大きく動いていることがわかる。静止している外部環境との相対的な運動を感じることのできないカトマンズの人々は、閉空間内にいる私と同様に強い地震動は感じなかったと思われる。1896年に明治三陸沖地震が発生し、日本の人口が現在の1/3の4千2百万人の時に2.2万人の人々が津波によって死者・行方不明となった。この津波による犠牲者が大きくなった理由の一つが、三陸地域で感じられた地震動が非常に弱く(震度2とか3とか言われている)、大きな津波を予想できなかったことが挙げられている。当時は地震計や長周期の固有周期を有する施設が現地には存在せず、長周期の地震動を検知できなかった。この地震は強い地震動が発生しなかった「ゆっくり地震(スロークエィック)」と呼ばれているが、これも今回のカトマンズと同様の現象であったのかもしれない。

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      カトマンズ地震の加速度記録(左)と変位応答スペクトル(右)

                        (目黒 公郎)