newsletter29号テキスト4

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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CIDIR Report

2015年ネパール・グルカ地震被害調査速報(その1:被害の概要とPP-バンド耐震補強の実績)


 2015年4月25日午前11時56分(現地時間)に、ネパールの首都カトマンズ市の北西77kmの地下15kmを震源とするMw7.8(USGS)が発生した。死者はネパールの8,460人をはじめ、周辺国のインド78人、中国25人、バングラデシュ4人を合わせ、8,567人(5月15日現在)である。

 建物被害は世界遺産建物をはじめとする古くて耐震性の低い組積造建物に限定される。被災地の組積造は、石(成形されたものと不規則な形状のもの)、日干しレンガ(アドべ)、焼成レンガ(焼成温度が低いものと高いもの)に分類でき、目地材としては(泥、泥+石灰、貧配合セメント、セメント)モルタルである。これらの組み合わせによって耐震性が決まるが、今回の被害は、低耐震の代表である不成形の石積み、アドべ、低温焼成レンガに、目地として泥や泥+石灰、貧配合のセメントモルタルを用いた組積造がほとんどだ。鉄筋コンクリート(RC)建物で被害を受けているものは、柱梁の接合部の強度が不十分な建物である。

 道路被害は、カトマンズ市の郊外では多発した斜面崩壊の影響を受けているが、市内の道路の被害としては法尻方向に少し滑った箇所や道路の中央部分で段差が生じた事例など限定的だ。同様に橋梁も多くは問題なく、橋桁のずれ防止装置(RC製)が桁の衝突によってせん断破壊しているものが少数見られただけである。

 この地震でその重要性が再確認されたのは、工学的な専門性を有していない人々が、現地で入手できる材料を使って、勝手に建設する構造物(これをノンエンジニアード構造物と呼ぶ)の問題である。被災建物の多くはこのノンエンジニアード建物であるし、死傷者の主たる原因もこの種の建物の被害である。

 ところで日本であれば、震災で多くの建物が被災すると、この被害の分析に基づいて耐震基準を改定し (この改定が既存建物に遡及適用されないことが問題視されるが)、建物の質の向上をはかる。しかし、多くの途上国では耐震基準の改正は問題解決にならない。理由は、多くの建物が耐震基準に従わずに勝手に建てられるノンエンジニアード建物だからであり、建物の耐震性は耐震基準の有無(多くの国は基準を持っている)やその良し悪しとは関係ない。

 そこで私は、世界中で入手可能な材料を用いて、特別な技術のない人でも対応できる簡単で、非常に安い耐震補強法の開発とそれを普及する社会制度の研究を進めてきた。その耐震補強法の1つがPP-バンド耐震補強法である。この補強法は、通常荷造りに用いられるポリプロピレンのバンド(PP-バンド)をメッシュ状にして組積壁の内側と外側に設置し、両者を目地に所々あけた穴から紐などで連結し、最終的に紫外線防止のために壁のメッシュの上にセメントや泥などを上塗りするものである。

 今回の被災地には、2009年にPP-バンド補強した2階建泥モルタルアドべ造の建物があった。電力もない地域であったので、溶接機を用いてメッシュの交点を溶着することができず、波状に編み込んだメッシュを用いて補強したが、このPP-バンド補強建物は、周囲の建物(泥モルタルアドべ造よりもはるかに耐震性の高いセメントモルタル焼成レンガ造)が被災する中で、壁の一部にPP-バンドの効果があったことを示す軽微な剥離があっただけで、屋根瓦の落下や移動もなかった。この建物の補強に要した材料費は50米ドル程度であったが、PP-バンド工法による補強建物の高い耐震性が実地震で実証された。

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(目黒 公郎)