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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:地震火災

地震火災時における広域避難の課題 -いつ、どこに逃げればよいのか-

● 「避難場所」ってどこを指すの?
 東京都では、震災火災発生時に大規模火災の輻射熱からの危険を避けるために、一定の大きさ(通常5ha以上)を有した「(広域)避難場所」の指定を行なっている。また、これと区別する意味で、居住地の最寄りの小中学校などは「一時集合場所」あるいは「一時避難場所」、そしていったん応急対応時期が過ぎて家を失った人たちを収容する施設は「避難所」(これも最寄りの小中学校や公民館が指定されることが多い)と呼んでいる。
 上記の「避難場所」は、本来は「広域避難場所」を指すものなのであるが、東京都によれば公式には「避難場所」と呼ぶとのことである。しかしながら、果たして区民、あるいは市民はその区別ができているのであろうか。一般の人が"避難場所"という用語を聞いてイメージするのは最寄りの小中学校や公民館ではないかと思われる。実際に、都内の区によっては最寄りの小中学校、つまり一時集合場所を「避難拠点」という名称をつけ地域の防災の拠点として位置づけている場合がある。これらがまた、緊急事態が収まった後に家を失った人たちの収容のための「避難所」ともなるわけであるから、混乱しない方が不思議だといってもよいくらいである。

● いつどこに逃げればよいのか
 現状では、地震火災発生時に、多くの住民はまずは最寄りの小中学校へ避難すると考えていることは疑いない。つまり、都や区の指導もあって避難を段階的に考えていて「一時集合場所」を経てから「広域避難場所」へと思っている。しかしながら、津波避難時であれば“津波てんでんこ”として語り伝えられているように、各自の判断で「即時に高台へ避難」であるのと同じように、同時多発火災発生時という緊急避難の際にも、やはり各自、各世帯の判断で「即時に広域避難場所へ」の流れであるべきではないだろうか。
 いったん、一時集合場所に集まって、近辺に危険が迫ったら整然と集団で広域避難先としての「避難場所」へ避難しましょうというのは、机上で成り立つ論理ではあるが果たして現実的なのか、筆者には疑問である。リアリティを持って想像すると、同時多発火災時には、火災のプロである消防機関でさえ、火災への対応だけで精一杯であり、それぞれの一時集合場所ごとに対して、火災の延焼状況を的確に判断して、いつ、どの「避難場所」へ向えばよいかを指示する余裕も体制もないと思われる。もしそうだとしたら、消防機関に代わる誰がこのような指示を行なうことができるのだろうか。
 これを実際に行なうためには、一時集合場所ごとに区役所や市役所から防災担当者を派遣して配置し、災害対策本部や消防本部と常に無線連絡ができる体制を確保しなければならないと考える。しかしながら、そのような具体的なことまで地域防災計画(震災対策編)に書かれている例があるようには思われない。

● 火災時の広域避難の考え方の見直しが必要
 今までこの問題が具体的に提起されることはあまりなかったように思う。関東大震災から年月を経て、都市火災に対する正しい認識、危機管理ができていないからではなかろうか。要するに切実感がないからだと思うが、目的や概念の異なる対応である「緊急避難先としての避難場所、一時待避・集合の場所、生活収容施設としての避難所」に対して、同じ「避難」という言葉の入った用語を用いて表現していることに混乱の素因があるに違いない。
 ところで、新聞ではベタ記事扱いであったが、2013年6月に改正災害対策基本法が成立し、「避難行動要支援者」の名簿作りとともに、「指定緊急避難場所」および「指定避難所」の指定が市町村に義務付けられた。対象とする災害は、洪水、津波などが主に想定されているようだが、他の災害にも適用される可能性がある。今後は、これらの用語と火災からの避難に関する既存の用語との関係整理、あるいは統合が必要となってくるかも知れない。しかしながら、市町村はその地理条件、地形条件によって、対象とすべき災害の様相や対応の仕方も自ずと異なってくるはずである。したがって、独自にでも各自治体でその地域の実情に応じて、広域防火避難場所とか広域津波避難場所、近隣集合場所、避難生活所などのより具体的な名称をつけて、住民が見たり、聞いたりしただけでその内容が分るようにしたらよいのではないかと思う。もちろん可能であれば、統一することが望ましい。
 ところで、筆者は東京都内のある密集市街地において、地震火災が発生した時における初期消火から広域避難に至る事項に関するアンケート調査を町会の協力を得て実施したことがある。アンケート結果から垣間見えたのは、住民は火災危険が迫らないとなかなか避難開始しようとしないこと、また、仮に避難開始しても最初に向うのはやはり最寄りの小中学校と考えていることである。たとえば、 避難開始の契機となりえる火災規模は、「自分の家のすぐ近くまで迫るとき」(32%)や、「自治体や消防からの避難指示があるとき」(39%)というようにぎりぎりまで避難しない、あるいは誰かの指示待ちという傾向がある。また、火災発生時における避難先として、7割(68%)もの人が最寄りの小中学校などの避難場所と回答している。広域避難場所ではない最寄りの小中学校にいても、近隣の延焼火災が迫ったときには、火炎からの輻射熱や飛び火などによって大変危険な環境となる怖れがあり、広域避難場所に向おうとしても途中で通過不能となる怖れもある。
 あらためて、震災時の同時多発火災発生時には、避難先は「広域避難場所」であること、そして危険が迫る前の事前避難を心がけることをもっと周知する必要があると思う。

(東京理科大学火災科学研究センター 関澤 愛)