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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:震災アーカイブスとその活用

東日本大震災デジタルアーカイブスの必要性と課題

 2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災は、多くの人命を奪い、地域社会に壊滅的な被害を与えた。その後発生した津波は、東北から関東までの約500kmに渡る広範な地域に甚大な被害を及ぼした。とくに、福島第一原子力発電所は地震と津波で冷却機能を失い、その後、メルトダウンし、周辺の多くの住民が避難することになった。今回の災害は、地震、津波、原発事故と、時間が経過するとともに被害が深刻化するという自然災害と人災が融合した災害であった。
 今回の震災と原発事故は、日本における東京と地方の問題、戦後日本の高度経済成長を支えた国土開発、さらに遡れば明治以降の日本の近代化の問題点を一挙に浮かび上がらせた。このような日本社会の基層にある根本的な問題とともに、今回の震災で明らかになったのが、日本における災害の記録を永続的に保存・保管していくアーカイブの重要性である。個人や地域社会が体験した災害の記憶や教訓を記録し、人類共有の貴重な財産として後世に伝承することは、東日本大震災のように発生頻度が低く一度顕在化すると社会に甚大な影響を及ぼす「低頻度大規模災害」に遭遇した私たちの責務である。
本稿では、時代の転換点としての311におけるアーカイブの必要性と課題について整理していくことにしたい。
 東日本大震災は、高度に情報化した日本で起こった災害で、この点が1995年の阪神・淡路大震災とは大きく異なる点である。被災地の人々はデジタルカメラやデジタルビデオカメラ等で災害を記録した。カメラ付き携帯電話が普及していたことも記録を非常に多くした。近年、インターネットの普及とICTの進化に伴い、ソーシャルメディアが普及し、人々が撮影したデータを投稿し、公開できる情報環境が整備されていた。東日本大震災においては、YAHOO!JapanやGoogleなどにはインターネット上に災害の写真や映像を投稿する専用サイトが設けられ、人々はこれらのアーカイブに撮影した写真等を投稿した。このようにして多くのアーカイブデータが収集されたものの、著作権・肖像権・個人情報保護・目的外利用などのさまざまな理由によって、データ(災害記録)の二次利用は難しい状況にある。ICTが高度に発達した日本で起こった今回の地震、津波、原発事故は、その多くが記録されたが、記録された写真や映像などのデータの公開・活用にあたっては、厳格な著作権・肖像権の問題をクリアーしていく必要がある。
また、テレビ局などのマスメディアは発災直後より多くの貴重な映像を記録し伝えたが、これらのマスメディアの映像も著作権・肖像権・報道目的外利用などの理由で二次利用ができない状況にある。災害のような緊急事態の記録については、全ての人々の共有財産として保存し、活用することができる法制度をつくっていかねばならない。今回の震災で記録された膨大な映像記録を蓄積・保存し、公共的に活用可能な仕組みを構築していくことは、今後起こる可能性が指摘されている南海、東南海、東海、首都直下などの大地震に私たちがどのように対応するのかという、極めて公共性が高く、緊急性のある取り組みとなる。このことを世間に広くアピールし、世論形成していく必要があるだろう。
 我々は、東日本大震災の記録をアーカイブに残すことの価値は少なくとも3つあると考える。第一に、記録そのものの価値。将来の災害を予測するための非常に重要な科学的な価値がある。また、震災以前に撮影された祭りなどの地域のアイデンティティに深くかかわる映像も文化的記憶として非常に重要である。第二に、記録するという行為。アーカイブスのプロジェクトで人と人を、過去と未来とをつなぐグループやチームがつくられ、既存の地域や組織を超えた協働性がつくられていく、そうした関係の束そのものに非常に価値がある。第三に、活用して生まれる価値。アーカイブの活用で最も大切なのは、人をつくるということである。人づくりの媒介としてのアーカイブの活用が重要である。
 こうした点を勘案すると、アーカイブの最前線である被災地のアーカイブ活動を支援する組織や、震災アーカイブを支援するアーキビストの育成・支援、そして地域の人材養成、さらには大学、大学院の専門職養成が、今後喫緊の課題である。また、著作権・肖像権などの問題については、法制度の整備を伴って、まずは公開を進め、本人の求めがあった場合には公開を停止するというオプトアウトで進めていくことが望まれる。
 アーカイブは、もともと静態的なもので専門家がつくるものだと考えられてきたが、東日本大震災のアーカイブはさまざまな人々が参加して、オーラル・ヒストリーや今起こりつつあることを含めて記録し、活用するという動態的なものに変わりつつある。また、情報化が高度に発達し、インターネットが普及した時代のアーカイブであり、インターネット上のウェブサイトやツイッターなどのソーシャルメディアの膨大な情報もアーカイブされていく必要がある。さらには、人々が世界中からインターネットを通じて、いつでも閲覧できるようにされつつある点もこれまでとは大きく異なる点である。たとえば、ハーバード大学ライシャワー日本研究所では今回の震災の記録をできるだけ多く保全、整理し、学者やネット上の広範なユーザーに使ってもらうために、「2011年東日本大震災デジタルアーカイブ・プロジェクト」を立ち上げている。
 以上のように、東日本大震災の記録のアーカイブ化は、将来の防災・減災のためはもちろん、地域住民が結びついて新しい社会基盤を形成していく上でも、またそのことを通じて専門的な能力を備えた人材が育成されていく面でも重要である。アーカイブ化は、単に記録するだけでなく、その記録を持続的に活用していく面に大きな価値があるのだが、現状では、著作権・肖像権などの法制度がアーカイブ活用の可能性を促進し得るものに変えられていかない限り困難な面もある。こうした困難を突破し、震災のアーカイブを未来のために活用していく基盤を創出できたなら、それは日本のみならず、世界で今後、震災や津波に襲われるかもしれぬすべての地域にとって大きな価値を生むものなるだろう。

 (三浦 伸也~(独)防災科学技術研究所客員研究員~ / 吉見 俊哉~東京大学副学長・大学院情報学環教授~)