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東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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特集:豪雨災害と防災情報

2004年水害の論点と残された課題-選択肢の多様化

 2004年には、新潟・福島豪雨、福井豪雨、台風23号風水害が、さらには中越地震が立て続けに発生し、世界的にもスマトラ地震津波が大きな被害をもたらした。防災対策という面でも、これらの災害は、津波避難ビルや災害時要援護者対策などのガイドライン等が取りまとめられる契機となった。そのひとつに「避難勧告等の判断・伝達マニュアル」があった。
 このマニュアルは、「避難勧告等の判断・伝達作成マニュアル(案)」として2014年4月に改訂、公表された。この改訂は、直接的には、災害対策基本法の改正や防災気象情報の改善等を受けてのことである。
 改訂の柱は、垂直避難を明示したこと、避難勧告等の判断基準を具体化したことの2点にあると考えている。このうち第1の垂直避難については、小学校に代表される指定避難所への、いわば水平避難に加え、上階への移動など家屋内に留まる行動も避難のひとつとして明示した。避難途中に水路に落ち、犠牲になった佐用町での水害を直接の契機として、中央防災会議「災害時の避難に関する専門調査会」で提言されたことを受けたものである。第2の判断基準については、空振りを恐れずに早めに避難勧告等を発令すること、そのための判断基準となる水位情報と降水短時間予報との組み合わせを例示するなどの具体化が図られた。
 前回のマニュアルにおいても、2004年の3水害において、屋内に留まったことによる犠牲者よりも、屋外で亡くなった犠牲者の方が多く、避難のあり方は議論となっていたことから、「浸水により避難所までの歩行等が危険な状態になった場合には、生命を守る最低限の行動として、自宅や隣接建物の2階等へ緊急的に避難するなどの行動をとること」とされていた。また、避難勧告等の「判断基準(具体的な考え方)については、できるだけ具体化を図りつつも、自然現象を対象とするため、想定以上又は想定外の事態も発生しうるので、総合的な判断を行うものとすること」とされていた。いずれも、一歩踏み込んだ内容へと改訂されたことになる。
 また、この3水害をはじめとして多くの災害で高齢者の犠牲が目立っていたこと、その中には寝たきりのご主人を2階へ引き上げようとして夫婦共になくなった悲劇もあり、当時の最優先事項は要援護者避難のあり方にあった。避難に困難を抱える要援護者が安全に避難できる早めの情報として避難準備情報が提言されたのも、そのひとつだった。
 災害情報のひとつの論点として、送り手側も受け手側も「イチか、ゼロか」の問題枠組みから脱却しない限り、解決は難しい。避難勧告を出すか出さないかの「イチゼロ」、小学校へ避難するかしないかの「イチゼロ」の組み合わせでは、安全サイドに考えれば早めの避難勧告を出さざるを得ず、その結果空振りが増える。他方、空振りを避けようとすれば見逃しやぎりぎりの避難勧告の発令となり、遠くへの避難はできなくなる。その意味で、垂直避難が明確に位置づけられたことは、受け手側にとって、身を守る行動の選択肢が増えたことになる。この多様な避難行動の選択肢を広く周知するとともに、ハザードマップに代表される事前の災害情報もこの多様性と関連付け、具体化していくことが必要であろう。
 他方、送り手側の「イチかゼロか」については、課題は依然として残されている。前回のマニュアルで市町村にとって重い決断である避難勧告未然に、切迫性を伝えるための選択肢として、「避難準備情報」を導入した。しかし、要配慮者の避難契機の役割を同時に担ったために、容易に決断できるものではなくなった。
 その対策として、兵庫県豊岡市が2004年の災害下で放送した防災行政無線放送内容だ。避難勧告等といった判断の結果ではなく、避難所を開設したこと、水位が上がっていること、排水ポンプ停止の恐れが出てきたことなど、市町村が判断する上で重視している状況の変化や準備状況を伝えたのである。これは今でも模範的な例であることに変わりはない。

 (田中 淳)