新型コロナウイルス渦における災害対応と災害対応工程管理システムBOSSによる避難所運営

特集:コロナとコロナ禍の防災

沼田宗純
2020年9月1日

 新型コロナウイルス渦において自然災害が発生した場合、どのような災害対応が求められるのかを事前に検討し、準備する必要がある。その際の効果的な災害対応のポイントは、次の5点が挙げられる。1. 災害対応業務フロー SOP (Standard Operation Procedure)を構築し、災害対応業務全体の中で、感染症対策が求められる状況を関係者間で理解し、共有すること。2. “密”を避けるために避難所などの機能が分散されることにより、効率的に各機能や拠点の情報収集を実施すること。3. 新型コロナウイルスへの対応が求められるなど多くの人的リソースが必要となるため、最適な職員の配置・スケジューリングを行うこと。4. 衛生用品の配分など効果的な資機材を管理するため、物資情報の管理と供給体制など後方支援体制を充実すること。5. 長期化する災害対応において、マスクの着用や手洗いの徹底など感染症に対する基本ポリシーを維持し続けること。
 本稿では、災害対応業務フローについて、特に避難所運営について述べる。川崎市と共同で、新型コロナウイルスへの対応を考慮した場合の避難所運営の業務フローを構築し、実証実験を行った。避難所運営の業務フローは、著者らが開発した災害対応工程管理システムBOSS (Business Operation Support System)を使いリモート会議を重ね、川崎市の避難所運営マニュアルや政府から公表されている新型コロナウイルス渦における各種ガイドライン等を参考にしながら、BOSS上で業務フローを構築した。その結果、避難所運営業務は約250種類の業務へと整理された。その画面の一部と拡大したものを図1に示す。
 このBOSSの業務フローを使い、新型コロナウイルス渦における水害時を想定した避難所運営業務についてBOSSの使用有無による業務の迅速性、確実性、効率性、対応力の向上等を比較検証した(図2)。検証は、マニュアルチーム(紙面の避難所運営マニュアルのみ使う)とBOSSチーム(BOSSに構築された業務フローを閲覧)に分かれて行った。その結果、マニュアルチームでは、「これ動線確保しないといけないですよね。どこをどういう風に通ってもらいますか?」など、メンバーで一緒に考えながら業務を行う傾向が見られた。マニュアルチームは、リーダーからの具体的な指示は少なく、チーム全員で考えながら皆が同じ業務に集中して対応していた。一方、BOSSチームは、「ホワイトボード設定をお願いします」「まず掲示物の貼り出しをお願いいたします」など、リーダーの指示により業務を分担している傾向が見られた。BOSSチームはリーダーの指示の下で各メンバーが各自の役割分担を明確に指示され、同時並行に分かれて業務を行っていた。
 川崎市職員へのアンケート調査では、マニュアルとBOSSの違いについて、「特に避難所開設準備の際に、BOSSチームは指揮者が数手先を見据えて、効率的に指示をしているように見受けられた」「本部で,避難所運営状況が分かるのは,結果として,本部,避難所とも安心感に繋がる」「定期報告の簡略や本部から速やかな支援にも繋がる」「避難所開設にあたり円滑に漏れがなくできていた」などの特徴が見いだされた。BOSSの有用性については、「業務がフロー化されているため、やることが分かりやすく整理されており、わかりやすい。また、開始や終了などが色で判別できるため、やることの漏れ等が少ない」「全員が1つのフローを見るため、同じ目的を持って行動ができると感じた。また、本部への連絡の迅速性や効率性が高まり、また本部での情報の集約が効果的だと感じた」との意見もあげられた。
 正解のない災害対応であっても、限られた情報から状況判断し、意思決定するなど、何らかの答えを導き出すことが求められる。その際、先手先手で先取りの対応をするためには、標準的な災害対応業務を構築し、災害対応業務の全体を把握することが必要である。今後、迅速かつ効果的な災害対応に向けて、避難所運営だけではなく、他の業務についてもフロー図を更新し、内容を充実させていく。