研究レポート No.01

東京大学 大学院情報学環 総合防災情報研究センター

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研究レポート

●研究レポート No.01
一般向け緊急地震速報の情報提供方法の提言
text by 鷹野 澄(2008年7月22日掲載)

平成20年7月22日
(7月25日部分改訂 目次、図の追加)

目次
・はじめに
・一般向け緊急地震速報の発信が遅れる理由
・望ましい緊急地震速報の提供方法
・提案する情報発信方法の検証
・おわりに
・参考資料
  資料1 緊急地震速報の発信状況(2007/10/1-2008/7/9)
  資料2 地震の際の緊急地震速報のマグニチュードと予想震度の成長
  資料3 提案する情報発信方法の検証


はじめに

 昨年10月から気象庁は、「2点以上の地震観測点で観測され、最大震度が5弱以上と推定された場合」に一般向け緊急地震速報として提供開始することにしました。その後本年7月20日までに一般向け緊急地震速報は計6回出されましたが、そのうち地震検知後5秒以内に出されたものは岩手宮城内陸地震の本震(M7.2)の1回のみでした。残りの5回は、最初に地震を検知してから8秒後、10秒後、14秒後、51秒後、58秒後に出されており、10秒以上遅れたのが4回、50秒以上と大幅に遅れたのが2回もありました。

 緊急地震速報を有効に活用するには、地震の発生を一秒でも早く伝えることが必要です。そこでここでは、一般向け緊急地震速報の発信がなぜこのように遅れたのか、どのようにしたら改善できるのかを検証し、現時点で可能なより良い緊急地震速報の情報提供方式を提言したいと思います。


一般向け緊急地震速報の発信が遅れる理由

 これまでに発信が遅れた5回のケースでは、地震検知直後の予想震度が震度4で、一般向けの基準である震度5弱に達していませんでした。その後、情報が何度か改訂されて、その途中で予想震度が5弱以上になった段階で一般向け緊急地震速報として発信されたために、結果的に情報の発信が大幅に遅れてしまいました(資料1)。

 なぜもっと早く正確に予想震度を出せないのでしょうか?それには3つの理由が考えられます。まず1番目は、地震検知直後では、わずか数点の少ない観測データから緊急地震速報が求められますので、最初に出される情報の精度は当然ですがあまり良くありません。緊急地震速報は、時々刻々、リアルタイムで計算しながら出される情報で、新たなデータが追加されれば再計算し改訂版を情報提供しています。このため、後になればなるほど、マグニチュードや予想震度などが正確に出されます。このために、後の改訂版ではじめて震度5弱の予想となって、一般向け緊急地震速報が遅れて出されるということが考えられます。

 2番目の理由としては、大きな地震になればなるほど、推定されるマグニチュードや予想震度が、時間と共に成長することが考えられます(資料2)。大きな地震の場合の断層破壊時間の目安は、マグニチュード6で3秒程度、7で10秒程度、8で32秒程度です。震源で破壊が開始してから破壊が継続すると共にマグニチュードも大きく成長します。6月14日の岩手宮城内陸地震(M7.2、最大震度6強)では、東大地震研の解析によると、断層破壊時間は10秒~15秒程度かかりました。緊急地震速報の第1報は、地震検知後3~5秒で出されますので、この時点ではまだ断層破壊が進行中です。このため、一般向け緊急地震速報が出された地震検知後4~5秒の時点では、まだ、M6.1、震度5強と小さく、その後8~9秒の時点で震度6強に、30秒の時点でM7.0にまで成長しています。

 ここで、マグニチュードや予想震度が成長するものであれば、最初の推定値に単純に+1程度かさ上げしたものを出せばいいと考えられるかもしれません。しかし、そう簡単ではありません。緊急地震速報の最初の推定値と最終値の差は地震毎にばらばらで、最初の推定値が最後まで変わらない場合もあります。また大地震の場合の破壊プロセスは複雑で、一旦破壊が収まったかに見えて、さらに大きな破壊につながることも良くあります。地震検知後3~5秒でその後の断層破壊の継続を予測することは困難で、従って時々刻々新しいデータで計算しなおすという今の緊急地震速報の情報の出し方は現時点でやむをえないものと考えられます。

 3番目は発表される予想震度の誤差が大きいということが考えられます。予想震度の推定誤差が大きくなる要因には以下のようなものが考えられます。まず、緊急地震速報の最初の震源位置やマグニチュードは誤差が大きいので、それから導き出される予想震度の誤差も大きくなります。さらに大きな地震の場合は、有限の断層面の形状や破壊の進行方向の影響、波動伝播経路の影響、地表面の詳細な地盤特性の影響などで地表の震度が大きく左右されるので、震源のみの情報である緊急地震速報で各地の震度を予想することは困難です。最後に、緊急地震速報を求める観測点の場所と、震度を観測している場所が同じでないことも、予想震度の誤差を大きくしている要因と考えられます。このように考えると現在、気象庁が緊急地震速報と一緒に提供している予想震度は、現実の震度観測点の最大震度を予測しているものというよりは、あくまでも緊急地震速報を有効に活用する為の一つの参考情報として位置づけて利用すべきであると考えられます。


望ましい緊急地震速報の提供方法

 緊急地震速報は、時々刻々改訂される情報であること、マグニチュードや予想震度は時間と共に成長することがあること、予想震度は実際の観測震度とは異なり誤差が大きいこと、などを考慮すると、現在の画一的な一般向けの緊急地震速報の提供方法では、なかなか一般の方の有効活用が難しいと考えられます。
 そこでここでは、現時点の緊急地震速報の予測精度を前提に、より望ましい情報提供方法を考えます。
 緊急地震速報は、時々刻々改訂される情報なので、最初の段階に出される情報と、何度か改訂された後に出される情報をまず区別します。

(1)初報:緊急地震速報の初期の段階で出される情報で、第1報または第1報から1秒以内の第2報をここでは初報と呼びます。多くの場合、初報は地震検知後6秒未満で発信されています。
 地震検知直後では、まず地震の発生を迅速に伝えて揺れに備えるように注意を促すことが大事です。このため初期の段階では、まず地震の発生を伝えることを目的として、地震検知後6秒未満でかつ予測震度が4の場合に予報(注意報)として、5弱以上の場合は警報として発信することにします。またこの段階では、マグニチュードや予想震度が今後すぐに大きくなる可能性があることも伝える必要があります。

(2)続報:初報の後に出される情報をここでは続報と呼びます。
 緊急地震速報の途中の段階で、①予想震度が大きくなって震度5弱以上に成長した場合には警報を発信します。すでに予報が出ている場合は、予報から警報への切換となりますが、予報が出ていないでいきなり警報を(遅れて)出す場合もありえます。しかし先に予報を出すことで、後者のケースを大幅に減らすことができます。

 また、②マグニチュードが7程度に成長した場合もマグニチュードの改訂情報を発信します。地震検知後10~20秒経過すると、マグニチュードが7程度以上に成長する可能性があります。マグニチュードが7程度では長周期地震動や津波などに注意が必要ですので、マグニチュードの改訂情報として発信し注意を促すことが重要と考えられます。さらに③マグニチュードが7.5程度に成長した場合もマグニチュードの改訂情報を発信します。地震検知後30~60秒経過すると、マグニチュードが7.5程度以上、8程度以上に大きく成長する可能性があります。このような巨大地震の場合は、その都度改訂情報を発信しつつ、すでに公表されている被害想定などを活用した情報発信に切り替えることが必要となります。


提案する情報発信方法の検証

 2007年10月1日9時から2008年7月9日までの気象庁の緊急地震速報の発信状況から以上の情報発信方法を検証して見ます(資料3)。

 まず(1)の初報として6秒未満で、震度4の予報が出されるケースは11回、震度5弱以上の警報が出されるケースは1回(6月14日岩手宮城内陸地震)の計12回でした(図3-1)。

 なお初期の段階でなくて途中の段階で(6秒以上経過後に)震度4に達するケースは、この間13回もありました(図3-2)。これから、単純に現在の震度5弱の基準を震度4に下げるのでは、大幅に遅れて震度4の予報が出るという事態を増やすだけとなって、遅れて警報や予報が出るという問題は改善されないことがわかります。

 次に(2)の続報で11回の予報から途中で警報に切り替わるケースは4回でした。7回は予報のみで終わったことになります。一方、予報無しにいきなり警報に切り替わるケースは1回(5月8日の茨城県沖)ありました。後者の場合は、第1報が6秒以内に出されずに9.3秒後と遅れて出されたのが原因です。

 改訂版の途中でマグニチュードが7程度に成長したケースとしては、最終報(58秒後)でM6.9になった5月8日茨城県沖(M7.0)と、第7報(22秒後)にM6.9になった6月14日岩手宮城内陸地震(M7.2)の2例がありました。


おわりに

 緊急地震速報を有効に活用するには、まず地震の発生を一秒でも早く伝えることが必要です。しかし、現在の一般向け緊急地震速報の提供基準では、その発信が大きく遅れてしまうことが明らかとなりました。この状況が続くと、緊急地震速報の信用失墜にもなりかねませんので、早急に改善する必要があると考えられます。そこで昨年10月から提供されている情報をもとに、現時点で可能と考えられる、より良い緊急地震速報の情報提供方式を提言しました。今回の提言のポイントは、緊急地震速報の情報提供フェーズを初期の段階(地震検知後6秒以内)とその後の途中の段階に分けて、初期の段階では地震の発生を早く伝えることを目的として予想震度4以上で予報を出すことにした点です。またその後の途中の段階では、マグニチュードや予想震度が時間と共に成長することを考慮して、予想震度が震度5弱以上、あるいはマグニチュードが7程度以上に成長したときに改訂情報を出して、その都度適切な対応を促すようにしました。一方、現在の震度5弱の基準を震度4に単に下げただけでは、警報や予報の発信が遅れて間に合わないという事態は改善されないこともわかりました。

 なお、今回の提言は、現在の気象庁の緊急地震速報の精度をもとにしています。今後さらに緊急地震速報の精度向上が進めば、今回提言した情報の出し方もさらに良い方向へと改善できるのではないかと期待しております。

総合防災情報研究センター(文責:鷹野)


参考資料

資料1 緊急地震速報の発信状況(2007/10/1-2008/7/9)
気象庁のホームページで公表されている資料をもとに、2007年10月1日午前9時からこれまでに出された緊急地震速報の発信状況を以下に示します。
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図1-1 初報の発信時間(秒以下切捨て、気象庁HP公表資料より作成)。31回のうち25回(8割以上)が地震検知後6秒未満で発信されています。なお、初報としては、第1報または第1報から1秒以内の第2報を採用しています。

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図1-2 初報の予想震度と発信時間(気象庁HP公開資料より作成)。赤いひし形は、一般向け緊急地震速報の初報です。大地震でも初報は震度4が多いことがわかります。

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図1-3 最大予想震度と発信時間(横軸は対数軸、気象庁HP公開資料より作成)。ピンクのは岩手・宮城内陸地震で、赤いは、遅れて出された一般向け緊急地震速報の発信時間(それぞれ8秒後、10秒後、14秒後、51秒後、58秒後)です。


資料2 地震の際の緊急地震速報のマグニチュードと予想震度の成長

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図2-1 2008年6月14日岩手・宮城内陸地震(M7.2)のときのマグニチュードと予想震度の成長の様子(気象庁HP公開資料より作成)。


資料3 提案する情報発信方法の検証

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図3-1 初報の予想震度と発信時間(図1-2再掲)。赤く囲ったのが予報または警報が出されるケースです。震度5弱以上で警報が出されるケース(1回)のほかに、地震検知後6秒未満で震度4の予報が出されるケースが11回増えます。一方、点線で囲ったものは、初報が6秒以上遅れて予報が出されないケース(4回)です。

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図3-2 最大予想震度と発信時間(図1-3再掲)。赤く囲ったものは、途中で震度5弱となって警報が出されるケースで、5回のうち4回は予報からの切換です。一方、点線で囲ったものは、震度4に達するのが6秒以上遅れて予報が出されないケース(13回)です。